第203話 あの曲は「蛍の光」じゃなかった

 遅い時間に店に買い物に行って、店内に「蛍の光」が流れ始めると、「あ、もう閉店時間が近いのか」と焦って買ったりします。


「蛍の光」イコール「閉店時間」のイメージ。(あとは、卒業式くらい)


 ところが、閉店時間に店内に流れる定番のあの曲は、実は「蛍の光」ではないのです。


 あの曲は「別れのワルツ」と言います。


「蛍の光」は、スコットランドに伝わる民謡「オールド・ラング・サイン」が元になっています。


 昔からスコットランドで歌い継がれていた「古い友人との再会を喜び、別れを惜しみ、次に再会できることを祈る」内容であった「オールド・ラング・サイン」のメロディに、日本語で歌詞をつけた歌が「蛍の光」です。


「別れのワルツ」も、源流に「オールド・ラング・サイン」があります。


 1940年、ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー主演のアメリカ映画「哀愁」の中で、主人公と恋人が「オールド・ラング・サイン」の音楽に合わせて踊るダンスシーンがありました。

 原曲をそのまま使用せず、シーンに合わせて映画用に編曲されたものでした。原曲が4分の4拍子だったのを、4分の3拍子にリズムを変えたのです。

 映画の中では、店内の照明が少しずつ消え、閉店間際に音楽が流れる演出となり、二人の別れも相まって、印象に残るシーンとなりました。


 映画の日本公開は9年後となる1949年でしたが、このBGMに人気が出て、日本独自でレコード化されることに。


 作曲家の古関裕而氏が採譜・アレンジして、「別れのワルツ」という曲名で販売されました。

 

 日本の商業施設で、閉店時に流れるのは、「蛍の光」ではなく、この「別れのワルツ」なのでした。

 

 この二曲は違う曲ではあるんですが、元になった曲が同じなので、聞き比べて「よく聞くと、違うかな……?」というレベルです。

 店によっては「別れのワルツ」ではなく、「蛍の光」のインストゥルメンタル版を流している所もあって、紛らわしいんですが。

 

「別れのワルツ」の方が3拍子で、ワルツのテンポで「ズン、チャッ、チャ」とリズムを取りやすいような……個人的には、そんな気がします。


 ちなみに「蛍の光」は、「蛍の光、窓の雪~」と詩的な表現で始まりますが、「蛍雪の功けいせつ こう」という言葉もある通り、「明かりが灯せないような暗く貧しい環境でも、蛍の光や、窓から照り返す冬の雪の白さで、勉強する」という苦学の表現です。


 今では、各家庭に電気が通っていて、当たり前のように照明がある世の中ですが、昔はそうじゃなかったのですね。


(ちなみにこれを書いている人間も、学生時代にアパートで一人暮らししていた頃、電気代を滞納して電気を止められそうになった経験の持ち主です。暗闇の中でも勉強しようという意欲は、まったく無かったです!)

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