第142話 やぎ座と「パニック」の関係

 夜空に輝く星座にはいろんな伝承がありますが、十二星座のうちのひとつ・山羊座やぎざは、その絵を見ると不思議な姿をしています。


 普通のヤギではなく、上半身がヤギ、下半身が魚。マーメイドの「人間ではなくヤギになったバージョン」みたいな格好です。


 なぜこうなったかと言いますと……。


 ギリシャ神話の登場人物で、牧畜の神・パーンがいました。

 パーンは、人間に似た姿をしていますが、顔にはヤギのヒゲ、頭にはヤギのツノ、足にはヤギのひづめという特徴の半獣半人……というか半獣半“神”。


 パーンは陽気な性格で、皆と一緒にお酒を飲んで、騒いで踊るのが大好き。


 この日も森で、綺麗な妖精たちや、他の神々とお酒を飲みながら、大勢で楽しくパーティーをして過ごしていました。


 そこに、怪物テュフォンが出現。

 100匹の蛇の頭を持つ、巨大で獰猛な化け物の登場に、パーティーに参加していた皆は慌てふためいて、逃げまどいます。


 他の妖精は空を飛んで逃げ、神々たちも鳥の姿に変身して、遠ざかっていきます。


 普段は明るく元気なパーンも、この時ばかりは焦っていました。

 パーンは、近くに川が流れていたのを見て、「魚の姿に変身して、泳いで逃げよう」と考えます。


 そこで魚に化けようとしたのですが、お酒に酔っていたのと、気が動転していたせいもあって、上半身はヤギ、下半身は魚という、中途半端な変身になってしまいました。

 それでもなんとか川を泳いで、逃げ切るのには成功。


 怪物から離れたところで川から上がったのを、主神ゼウスに見られていました。

「なんすかーその中途半端なカッコウ! 超ウケるんですけどー」と大笑いされてしまいます。

 ゼウスが 「鉄板の爆笑ネタあざーす。皆にも見てもらおうぜーホラホラ」と、その姿のパーンを星座にしたという、そんなお話。


 そして、「慌てふためいて我を失う」状態を、「パーン」が形容詞化して 「panicパニック 」と呼ぶようになったわけです。

(昼寝を邪魔されたパーンが、大声を出して家畜を追い回したことが語源という説もあります)


 酔ってやらかしてしまった自分の失敗を晒し物にされたり、悪い行動の名前に自分の名が残ったり、パーンの胸中を思うと、少し同情しちゃいます。

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