第117話 「北斗の拳」ができるまで

 前作、「ジャンプ」作品について触れたので、その繋がりで、今回は「北斗の拳」を取り上げようと思います。個人的に好きなので。


「北斗の拳」の原作者である「武論尊ぶろんそん」こと、岡村善行氏は、若かりし頃、自衛隊に所属していた時期があります。

 そこで、「男一匹ガキ大将」「俺の空」「サラリーマン金太郎」などで知られる漫画家・本宮ひろ志氏とは、同期の仲間でした。


 除隊後、漫画家として活躍を始めた本宮氏の仕事場へ、除隊した岡村氏はアシスタントとして転がり込みます。


 アシスタントとして居候状態になりましたが、絵が描くスキルが無いので、主な仕事は身の周りの雑用係。

 原稿を取りに来た編集者の相手をしたり、持ち前の明るさと話術で、場を盛り上げたそうです。


 トークの面白さを編集者に評価され、「漫画の原作、してみない?」と誘われて、何本かジャンプ漫画の原作を引き受けます。


 その後、ある編集者が、


「古本屋で見つけた本に書いてあったんだけどさ。中国で、目の病気を治すツボを研究している気功師がいて、自分の体で人体実験やっているうちに、視力が低下して、ついには失明したんだって。ツボを押すと病気が治ったり健康になったりするけど、逆に不健康になったり、あるいは死ぬツボもあるかもしれないわけだ。これ、マンガのネタに使えない?」


 とアイデアを持ってきました。


 その場では特に、漫画原作として発展することなく終わりましたが、新人の漫画家が「拳法アクションが描きたいです」と描きたがっていたことから、この話が転がり、秘孔を突いて悪を倒す「読み切り版・北斗の拳」が1983年に作られました。


 この新人の漫画家というのが、「北斗の拳」の作画を務める原哲夫氏です。


 読み切り版では、舞台は現代日本、主人公は青年・霞拳四郎かすみ・けんしろう

 さらわれた恋人・ユキを取り戻すため、悪の暗殺組織「泰山寺」と、北斗神拳で戦うという内容でした。

「ケンシロウ(拳四郎)」「北斗神拳」というワードは出てきますが、他の設定がまったく別物です。

「お前はもう死んでいる」という名ゼリフも、読み切り版では「あんた、もう死んでるよ」というものでした。


 掲載した結果、アンケート結果は上々。

 連載が決まり、この作品の原作をやらないかという話が、岡村氏のところに回ってきます。


「この設定では、長い物語は難しそうだ。現代が舞台では、拳法の達人でも、銃で撃たれれば死ぬ。武器や文明が滅んだ、核戦争後の設定にすればいい。最近見た映画に、そんなのがあって……」


 1981年の映画「マッドマックス2」の影響を多分に受けた、あの世界観が生まれました。


 漫画に合わせて、男臭い世界観だからチャールズ・ブロンソンからとって「武論尊ぶろんそん」というペンネームで原作を担当することが決まり、あの「北斗の拳」が始まったのです。


 1980年代、「北斗の拳」は人気を博し、アニメ化され、当時の男の子はこぞってマネをするほどの大ヒットとなりました。

(断末魔の叫びの「ひでぶ!」「あべし!」とかも)


 宿敵・ラオウの「我が生涯に一片の悔いなし!」を始めとする、個性豊かな人物たちの名ゼリフの数々は、現在でもあちこちでネタになっていますし、スピンオフ作品も作られ続けています。

 意外なところでは、「ラオウ」つながりで、日清のカップラーメン「ラ王」とのコラボ商品が発売されたこともあります。


 ちなみに、「北斗の拳」は、2003年にタイアップで発売されたパチスロ機が大ヒットして、パチスロ史上最高の設置台数として記録に残っているほか、パチンコ・パチスロ共に長年ヒットを飛ばし続ける看板作品となっています。

 原哲夫先生は「北斗の拳」の他にも「花の慶次」の作画もやっているので、これまたパチンコの大ヒット作品なんですよね……すごいや。


 あまり知られていませんが、「北斗の拳」はアメリカで1995年に実写映画化もされていたんですよ。

 内容は……うん、まあ、アレですけど。

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