第48話 タイトル引用は、著作権侵害にならない?
1991年のこと。
子供だった私に、父が突然「アイドルのCDを買ってきてくれ」と頼んできました。
ああ、いいトシこいて父がいきなりアイドルにハマるなんて!と当時は驚いたものでしたが、詳しく話を聞くと、少々事情が違うようでした。
父から頼まれたのは、女の子三人組のMi-ke(ミケ)というグループがリリースしたCD、「想い出の九十九里浜」という曲。
「想い出の九十九里浜」の歌詞には、「夕陽が泣いている」「君だけに愛を」「花の首飾り」「好きさ好きさ好きさ」「神様お願い」「バラ色の雲」「長い髪の少女」「遠い渚」「あの時君は若かった」「真冬の帰り道」「落葉の物語」といった言葉がちりばめられています。
これらは、すべて既存曲のタイトル。
ザ・スパイダース、ザ・タイガース、ヴィレッジ・シンガーズ、ザ・テンプターズ、ザ・カーナビーツ……1960年代に活躍したグループサウンズ(頭文字を取って「GS」と略します)の曲名を、歌詞に多く織り込んでいるので、父の世代にとっては、聞いていて懐かしいのだそうです。父は、ラジオでこの曲を知ったようでした。
幼かった私は、その話を聞いたあと、父に尋ねました。
「権利関係とか、大丈夫なの? 歌詞に使って、ちゃんとお金払ってるの?」
今から思うと、着眼点がちょっとイヤな子供ですね。
父は、苦笑しながら答えました。
「曲名だけ使うなら、著作権とか大丈夫なんだよ」
なーるほど! 将来、いつか、それを利用してひと儲けできないかな……幼い私は考えたのでした。
そんなことを考えていた記憶もすっかり薄れていた、大人になったある日。
2017年、山田孝之主演の「山田孝之のカンヌ映画祭」というドキュメンタリーを見た時のこと。
主題歌は、フジファブリックの主題歌「カンヌの休日 feat. 山田孝之」。
これを聞いた時に、先述の「想い出の九十九里浜」の話が脳裏に蘇りました。
フジファブリックの「カンヌの休日 feat. 山田孝之」は、歌詞に「失われた週末」「かくも長き不在」「4カ月、3週間と2日」「永遠と1日」「パリ、テキサス」「パパは、出張中!」など、カンヌ映画祭で受賞した映画のタイトルを織り込んであります(というか、ほぼ映画のタイトルだけで歌詞が構成されています)。
曲名や、映画のタイトルを、他作品に引用するだけなら、使用料はかからないようです。
というのも、著作権というのは、創作された「著作物」を保護する目的で発生するものなので、言葉として短い「題名」については、「極めて短い表現であり、創作性が低い」「短いフレーズは偶然似てしまう場合もある」という判断で、著作権は発生しないらしいんですね。
「極めて短い表現」を、権利がある「著作物」だと認めてしまうと、どんな短い言葉でも使うことができず、後年の創作者たちががんじ絡めになって新しい表現が一切できなくなってしまいます。
「おはよう」という言葉を「著作物」として登録したら、毎朝、誰かが挨拶するたびに、使用料だけで大儲けだ!ということはできないわけです。
(一度、考えたことあるんだけどな……残念)
ただ、映画や曲のタイトルに著作権がないからといって、有名なタイトルをすべて自由に使っていいというわけではなく、既存作品と誤解されるような方法で発表した場合は、「著作権侵害」ではなくても「不正競争防止法」で処罰対象になる可能性はあるようですね。
誰か、やってみませんか?
法に触れない範囲で、「既存の小説のタイトルを、大量に文章に織り込んだ小説」とか。
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