第47話 『学問のすすめ』の名言の続き

 福沢諭吉は、『学問のすすめ』の中で、


「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」


 と語ったというのは有名な話。


 人に上下はなく、すべて平等なのだ……と良い言葉に聞こえますが。


 福沢諭吉は、アメリカの独立宣言に感銘を受け、1866年の『西洋事情』でその全文を和訳して掲載しています。

 独立宣言の前文は「すべての人間は生まれながらにして平等である」と書かれていて、影響を受けた福沢諭吉が、その大意を『学問のすすめ』でも引用したのだと思われます。


 福沢諭吉は、当時の日本の現状を嘆いており、「天は人の上に人を造らず~」の名言の後に「現実には身分の上下も貧富の差もあり、この世は不平等だ」という意味の文章が続きます。

 その不平等を乗り越える術として、「勉強が大事」と語っているのが『学問のすすめ』なのです。


 身分の上下、格差が生まれる背景には「学問」が関係してくる。学べば賢くなり、良い仕事に就くことができ、出世もできる。しなければ愚かになる。

 つまり「勉強は大事だからちゃんとしておきなさいよ」ってことが言いたかったわけです。

 極論、「ドラゴン桜」で阿部寛が言っていたみたいなことですね(ちょっと違うか)。


 名言の続き、といえば、他にも思い出したものが。


「健全な精神は、健全な肉体に宿る」という言葉があります。


 古代ローマの詩人、ユウェリナスの言葉です。 

(勝手なイメージですが、学校で体育の先生が言いそうな名言です)


 実は、この一節の全文としては、


「健全な精神は、健全な肉体に宿るように、神に祈るべきだ」


 と、願望を語っているのだそうです。

「~宿る」ではなく「そうなるように祈るべき」なんですね。


 ユウェリナスがいた頃の古代ローマ帝国は、体をムキムキに鍛えた軍人たちが市民に威張り散らし、政治的に汚職をし、悪行三昧がまかり通っていたらしく、こうした振る舞いを嘆いたのだとか。 


 現実は、マッチョな肉体に、マトモな精神が宿っていない奴らばっかりだったから「そうだったらいいのに」と言葉が口から出たのでしょうね。


 ユウェリナスは詩人であり、弁護士でもありました。

 現実は、理想と異なることが多く、辛く悲しい事件に満ちている……弁護士という職業柄、様々な闇の面も見てきたのでしょう。

「健全な精神は~」の言葉は『風刺詩集』という痛烈な社会風刺、社会批判の詩集の中で綴ったものです。


 現代でも残っている歴史上の偉人の名言も、掘り下げてみると「時代的な背景」というか、作者の願いのようなものが垣間見えてきて、興味深いです。

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