第22話 大団円

「!!」

そうだ!イナバが危ない!バタイユとか言ったか?ミステールが俺を倒す秘策として待っていたもう一人の月の神。奴の話ではそいつより強いものは居ないと言っていた。もし話が本当ならばイナバの敵う相手ではない。俺と兎を合わせての3対1で相手になれば良いほうだろう。すぐに駆けつけなくては!


「兎!」


「なんだ同志?急に血相を変えてどうした?」


「俺の仲間がピンチかもしれない!急いで向かうぞ!」


「な……!!」

兎もミステールの話を思い出したのか、驚きの表情を浮かべている。


「同志……」


「なんだ?居場所が分かったのか!?」


「友達いたんだな……」


「言ってる場合か!!」


「しかしなぁ、同志。今この空間にある存在を探知しているが、反応は兎達以外には1つだけだ。勝ったか負けたか、いずれにしても勝負はもうついた後なんじゃないのか?」

確かに剣戟の音もしない。誰かが戦っている様子はない。だが、イナバの状態がどうであろうと、彼女を捨て置くことは出来ない。彼女は協力者だ。自分だけ目的を完遂したからと言って尻尾を巻いて逃げるような真似はしたくない。例え、それがどんな強敵であろうともだ。


「勝ってんならそれでいい、負けてんなら仇討ちだ!行くぞ!」


「同志の仲間なら兎の仲間でもあるか。いいだろう、あっちだ同志!」


兎の案内で月の荒野をひた走る。そこに居たのは魔法瓶でお茶を飲むイナバの姿だった。


「ふむ……やはりハティ殿が淹れたもののほうが美味しい。噂をすれば、ごきげんよう、ハティ殿……と兎嬢かな?」


「如何にも!兎の名前はラブリだ!よろしくな!……て、ハティ?同志、お前の名前ハティっていうのか?」


「言って無かったのかね?」


「言ってなかったか?」


「言ってなかったが?言えよ!」


「わ、悪かった。ごめん」


「全く、同志は人の気も知らないで……まぁいい。そっちはイナバで良かったか?」


「ああ、よろしく頼むよ。ラブリ嬢。」


「無事そうで何よりだ、イナバ。お茶を飲む余裕まであるようだしな」


「嫌味に聞こえるぞ、同志。そんなんだから友達居ないんだ」


「うるせぇ、お前も居ないだろうが。……気を悪くしたならすまなかったな。決着が俺達より先についていたみたいだが、合流してこなかったのを心配していたんだ。」


「ああ、それについては先程まで気を失っていてね。それに、これを見給みたまえ」

そう言ってイナバは魔法瓶を持つ自分の手を指さした。手は小刻みに震えており、魔法瓶からはチャプチャプという水面みなもの揺れる音がする。


「この通り、敵を倒すのに限界を超えて戦ったせいでもう一歩も歩けない状態だ。正直お茶を飲むので手一杯だ。」


「そうか、大変だったな。でも、今度こそ俺達の勝利だ!」


「やったな!同志!イナバ!」

3人で堅く抱擁を交わす。


「つぶれそう。つぶれそうだ。ラブリ嬢」

体格が一番小さくまともに動けない状態のイナバがラブリに押しつぶされている。


「す、すまないイナバ。嬉しくてつい、な」



一先ず互いの無事を確認し合ったので、ルーナエを呼んできた。ずっと宇宙船を見張っていたようだが、幸い襲ってくる気配はなかったらしい。ミステールの言葉に嘘はなかったようだ。月の兵たちにはミステールの命令が行き渡っていたらしい。それだけ月の神による支配が強固なものだったのだろう。


「それで、この後はどうするんだ?」

俺達は目的を果たした。だからと言って月の政治中枢を破壊して、はいさようならというわけにもいかない。社会に混乱をもたらし、路頭に迷う人間を出したいわけではないからだ。


「月の統治に関しては私に任せてくれて良い。政治体制が確立されるまでは私が構築に携わろう。」


「いいのかい?君だって目的を達成したのだからすぐさま自分の世界に戻って次の手を打ちたいだろう?」


「構わないさ。2600年待てたんだ。もう数年待つくらい何てことはない。君も遠慮せずに地上に戻ると良い。それより、ハティ殿、ラブリ嬢。君たちはどうする?」


「俺達は暫く月にいる。兎を神域から出す方法が見つかり次第帰るさ。」

ミステールは依り代を利用し神域の外へ出ていた。イナバも実体を持っているため普通に外で活動している。何らかの方法で兎の肉体を用意することが出来たなら、外に出すことが出来るはずだ。


「それまでイナバと一緒だな!」


目的を果たした俺達は三者三様の未来へと進む。願わくば、この大団円のような幸せが、皆に続かんことを。

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