第21話 最終決戦

「ここは……どこだ?」


辺りは霧に覆われている。足元には石と固い土が見えた。目を凝らして周りを見渡すと石や丘が見える。緑の姿はない。殺風景な荒野だ。


「!!」

背後から高速でこちらに向かってくる気配を感じ剣を抜く。そのまま振り下ろし、相手の攻撃を叩き落とした。


「何という反応速度……!だが、これは防げるかな?」

敵の気配が増幅する。恐らく分身だ。ミステールの分身達は一斉に襲いかかってきた。武器は剣、槍、銃など様々なようだ。


「全方位からのありとあらゆる攻撃!いくら君の反応が早かろうと防ぎきれるものか!」


「全方位攻撃はテメェの部下が失敗していただろうが!バカか?」

地上で侵略者を相手したときの様に、難なく敵を切り伏せる。だがかすみを掴んだかのように手応えがない。そんなことを思っていると、霧の中から第二波の軍勢が現れた。これも薙ぎ払えばあっさり対処できるのだが。


ちょっと待て、何でコイツはこんな無意味な攻撃を繰り返している?何のためだ?

時間稼ぎか?それともこれがコイツの最も強い攻撃手段なのか?

いや、さっきの奇襲時でさえ大した攻撃はしてきていない。

とするとコイツは時間稼ぎのためか、俺を消耗させる目的で攻撃を繰り返している。

何にせよ付き合ってやる義理は無い。本体を探し出してぶっ殺してやる。


目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。辺りに糸を張り巡らせるイメージで集中する。張り詰めた糸が震えたような気がした。そこだ!


「ぐぁッ!!」

探り当てた場所を剣で一閃する。どうやら正解だったらしい。分身を切ったときとは違い、今度は確かな手応えがあった。


「馬鹿な!僕の『神秘』の能力によって居場所が秘匿されていたんだぞ!如何に五感が優れていようと見破れるものか……!」


「じゃあ第六感だ」

こいつが何を言っているかよくわからないが、適当なことを言っておこう。


「じゃあな。これでトドメだ」

うずくまるミステールにそう言い残すと、剣で首を跳ね飛ばした。ミステールの首は宙を舞い、そのまま霧に消えた。これで兎の仇も討った。後はアイツを見つけるだけだ。そうは言ってもどうやって見つければいいんだ?ラブリは『待っているぞ』としか言わなかったしな……。などと、あれこれ考えながら俺は霧の中を歩いていた。


そういえばこの霧はミステールの能力によるものじゃないのか?でもミステールは先程確かに討ち取ったはずだ。まさか……


背後に気配を感じて振り返る。するとそこには先ほど倒したはずのミステールが立っていた。


「!!!!」

俺は剣を構えて斬りかかった。


「無駄だよ」

言っているだけだ!そのまま剣を振り下ろし、ミステールを袈裟けさ斬りにした。またしてもミステールは霧へと溶けた。


「無駄だと言っているだろう?」

後ろでミステール笑いながら言った。振り返り今度は細切れになるまで切り刻んだ。

だが……


「聞いちゃくれないな。まぁ時間が稼げるなら僕は一向に構わないけどね」


「何?」


「実体だけで構成されている君には、神秘という概念を司る僕を倒すことは不可能ということさ。」


「なんだと!?」


「もう一人の君のお仲間、イナバと言ったかな?彼女なら僕にとどめをさせただろう。だが、彼女はバタイユと戦っている。戦闘においてアイツより強いやつは居ない。そろそろ彼女を仕留めたバタイユがこちらに来る頃だろう。その時が君の最期だ。それまで神域ここで無限に再生し続ける僕と戦い続けているといい」


「フフフ……ハハハハハハ!!!!」


「何が可怪しい?死を前にして気でも狂ったか?」


「いいや、の勝ちだ」

勝利を確信した俺はニヤリと笑って言った。


前にイナバは言った。月の神は実体が無いから神域に引き籠っていると。つまりは神域は実体の無いものでも存在できる場所と言うことだ。

そして、夢は物理的に空間を専有せずに存在する者との交信である。言い換えれば夢に出てくる者は実体を持たず存在している。

また、ミステールは言った。実体だけで構成されている者には自分を倒すことは出来ないと。つまりは存在に実体以外を含むものであれば倒すことが出来ると言うことだ。

最後に、ラブリは月で言っていた。『待っているぞ』と。


「ラブリ!」


霧の中からうさみみの少女が現れる。彼女は、明度の高い銀髪と真っ赤な瞳を携え、赤い軍服を身にまとっている。間違いない、ラブリである。


「やっと呼んだな、同志!兎は待ちくたびれたぞ。すぐに呼べば良かったのに、相変わらず素直じゃないなぁ」


「うるせぇ。聞こえてんならさっさと出てこいよ!」


「呼ばれるまで同志がどこにいるかが分からなかったんだ!兎だってすぐに会いたかった……て、あれ?な、泣くな同志!兎が悪かったから、な?」

また元気な姿の兎に会えたからか、無意識に涙が頬を伝っていたようだ。


「違ぇよ、お前に会えて嬉しかっただけだ」


「そうか……。兎も、また会えて嬉しいぞ」


「ラブリ伍長……今更君が現れたくらいで戦況は変わらないんだよ!」

焦りの表情を浮かべたミステールが斬りかかってくる。俺はそれを軽く受け流し、ミステールを一刀両断した。しかし、すぐにミステールの体は再生してしまう。


「ラブリ!」


「任せろ、同志!」

兎は空中を蹴り、ミステールの周りを跳ね回りながら射撃している。縦横無尽に空中を跳び、ミステールを中心に半球を描くように様々な角度から射出された弾丸たちは、一瞬にして彼を蜂の巣にした。


「同志、トドメは任せたぞ!」

穴だらけになったミステールの体を、兎は上に向かって蹴り上げた。そして俺の剣を大鎌に変化させた。すかさず俺は跳び上がり、ミステールに向かって全力で鎌を振り下ろした。


「ぐぁぁぁあああ!!!!!!」

断末魔を上げミステールが切り裂かれる。バラバラになった彼の体は、もう再生することはなかった。また、それと同時に辺りを満たしていた霧も晴れた。


「やったな同志!兎たちの勝ちだ!」

地面に降り立った俺に兎が笑顔で駆け寄ってくる。


「ああ、そうだ!俺達の勝ちだ!!」

月の戦争は俺達の勝利で幕を閉じた。


…………何か忘れているような?

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