第19話 宿敵ミステール

怪しさ満点の白衣の男に向かい、俺は剣を構えた。


「無駄だ、奴は分け御霊わけみたま、平たく言うと分身だ。恐らく倒したところで何のダメージにもならない」

男を睨みつける俺の手をイナバが静止した。それを見て白衣の男はパチパチと手を叩いている。


「いやー、お見事、ご明察の通りだ。この体は機械をしろにして作った分身というわけさ。君たち相手じゃ何の危害も加えられないだろうが、僕にも一切ダメージがフィードバックされない」


「君は何者だ?」


「僕かい?僕はミステール。司る概念は『神秘』だ」

目の前の男は堂々と招待を明かした。コイツは何が目的なんだ?益々謎が深まる。


「お前、何が目的なんだ?」


「君たちを最終決戦に直接招待しようかと思ってね。月を支配する神、二柱との神域内での決戦さ」

耳を疑った。それはいくらなんでも俺達に都合が良すぎる。なにか裏があるはずだ。


「どういうつもりかね?」


「地上で交戦した兵士たちのログを聞く限りじゃ、君たちの目的は弔い合戦らしい。元から僕ら二柱が目的なら相手してあげようって話さ。」


「何故妨害しない?」


「月の兎兵が何体いようと君たち相手じゃ削りにもならない。それに、僕らが姿を表さなきゃ君たち、都市を破壊して暴れるだろう?」

確かにそれも考えていた。都市に被害が出るのであれば敵の神も姿を表さざるをえないと思ったからだ。だが……


「だが、君たち随分お人好しらしいじゃないか。なら、そんな事したくないだろう?」

悔しいがコイツの言う通りだ。兎と同じような境遇にいる月の民も居るかもしれないのに、無闇に死人を出したくない。


「一応筋は通っているね?」


「そうそう、Win-Winだと思うよ!納得してくれた?」


「ああ、一応な。俺とイナバは神域まで言って戦ってやる。だがルーナエ。お前はここに残って船を守れ」


「どうしてだい?私も戦うよ?」


「俺達が神域に行った後奴らは船を破壊するかもしれない。そうしたら帰れなくなるだろ?依頼を受けただけのお前がそんなリスクを冒す必要はない。いざとなったら船を出して地上に戻れ」


「そんなことをしたら、君たちはどうやって帰るんだい?」


「イナバは地上には帰れないだろうが元の世界には帰れるはずだ」


「おや、気づいていたのか。そうだ、神域経由で帰ることが出来るから心配はない」

イナバは元々異世界から来ている。目標を達成後、異世界に帰るつもりだったようだから、何らかの手立ては持っているはずだ。そして月の神を倒せば彼女の目的も達成される。


「……君は、どうするつもりだ?」


「……」

俺がどうするか、か。俺の居場所は兎が、ラブリがいる場所だ。なら……


「……すまない。野暮やぼなことを訊いたね」


「話は纏まったか?神域に来るのは狼耳の君とうさみみの神でいいのかな?」


「ああ」

「異論ない」


「ではあのアトリウムまで来てくれ」

白衣の男はそう言うと霧状になり姿を消した。機械の依り代にも関わらずそのような真似を出来るのは恐らく能力によるものだろう。


「じゃあ行ってくる。アイツを倒したら戻って来る」


「わかった。気をつけてね」


ルーナエに見送られ、アトリウムに向かう。道中、警戒して歩いたが襲われることはなかった。それが逆に緊張感を高めた。アトリウムはあの日夢で見たものと同じだった。ここに兎が居るのだ。意を決して扉を開けると、辺りが霧に包まれた。

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