第18話 ようこそ月面へ!

目が覚めると、目の前には透明な青色の板が広がっていた。周囲は壁に覆われている。そうだ、昨日は宇宙船の中で眠りについたのだ。寝転がったまま右手を動かし、ボタンを押す。するとシュー、という作動音とともにハッチが開いた。先程まで寝そべっていたクッションに手をついて上体を起こし、立ち上がる。俺は宇宙船内のカプセルで眠っていたのだ。カプセルは人1人が寝られる程の大きさしか無いが、防音性や温度も適度であり、存外快適だった。何なら家の布団よりもよく眠れたくらいだ。カプセルのスクリーンに書かれた時刻を見ると19時である。さきの戦闘から21時間も経っているじゃねぇか。寝過ぎだろ。


シャワーを浴び身だしなみを整える。食事を軽く取ろうと食堂に行くと2人がコーヒーを飲んでいた。扉を開けた音で気づいたのか2人がこちらを見る。


「おはよう。よく眠れたかい?……とは聞くまでもないね。」


「ごきげんよう、ハティ殿。」


「おはよう、ルーナエ、イナバ。到着まではあと2時間くらいか?」


「そんなところだ。退屈なのでルーナエとお話をしていた。」


「イナバは異世界の神だそうだね?神代の話を色々と聞かせてもらった。帰ったらうちのリーダーにも話してあげたいね。」

神の時代の話か。気になるな。ちょっと聞いてみたかった。


「俺を起こしてくれても良かったんだぞ?」


「君はよく眠っていたようだから邪魔するのは悪いかと思ってね。」


「それに平時とは違い可愛らしい寝顔を終わらせてしまうのも勿体もったい無かろう?」

イナバがニヤニヤしながら言った。


「うるせぇ。そんなことよりさっき思ったんだが、俺達って地上であれだけ派手に暴れたよな?」


「そうだね。敵の装備が特定の言葉に反応して爆発したことから考えて、リアルタイムで監視されていたわけではないと思うけれど、月に何らかの報告が飛んでいても可怪おかしくはないね。」


「月の結界って選択的に物体を通すことが出来るんだよな?」


「何だ、船が月に入れないかも知れないと考えているのか?」


「無い話ではないだろ?」

月の民からすれば、俺達の侵入を拒んでさえしまえば、征服されるおそれもなくなるのだ。結界を使って通せんぼするのは合理的な選択ではないのだろうか。


「まぁそうだが。可能性は低いだろうな。」


「というと?」

ルーナエも理由に察しがついていないようだ。


「確かに結界を使えば私達をシャットアウト出来るだろう。それで、締め出されたら私達は大人しく帰るだろうか?」


「帰るわけ無いだろ。なんとかして結界に穴を開けて侵入しようと……あ!」


「気づいたか。結界には月の大気を保つ働きがある。穴なんか開けられようものなら大惨事だ。」


「何なら月の民には我々の目的が分からない状態だ。もし彼らの殲滅せんめつが目的だとしたら、わざわざ攻め入らずとも結界の破壊だけで達成出来てしまう。」


「だから奴らが俺達を仕留めるとしたら結界の手前か、あるいは入った後のどちらかになるだろうな」


「そのとおりだ。お分かりいただけたかね?そういうわけだから月が近づいてきたら宇宙服に着替えて戦闘準備をしておいてくれたまえ。」


「発進のときに確認したがこの船にも武装はあるようだね。」


「武装の扱いはルーナエに任せよう。私達には扱い方が分からないからな。それにおそらく私達なら覚えて使うより自ら外に出て戦ったほうが強い。」


「それもそうか。」

宇宙戦艦の主砲より生身の人間の攻撃のほうが強いというのは、よくよく考えれば信じられない話だ。だが自分の事なので納得してしまった。



到着の時間が近づく。窓からは暗闇の中に白く輝く球体が見えてきた。目標の月である。宇宙服に着替え戦闘準備をする。だが、いくら月に近づけども、敵の気配はない。そのまま結界を抜け敵の本拠地に船を下ろす。しかしながら待ち伏せされている様子もない。警戒態勢のままハッチを開けると、外には白衣の男が立っていた。


「ようこそ月面へ。侵入者御一行様。」







【以下ご報告】

昨日は投稿できず申し訳ございませんでした。

3/3頃まで予定が立て込んでおりまして、更新に穴が開く可能性がございます。

あと5話以内には完結すると思われますのでもうしばらくお付き合いください。

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