第16話 敵性宇宙人(エイリアン)

ギルドに行き月の妖精と会った。ショートの金髪に中性的で端正な顔立ち。それに何より、赤く独特で美しい瞳。兎と同じものだ。一目で直感的に月の妖精だと分かった。

月の妖精には包み隠さず事情を話した。それが最低限の誠意だと思ったから。彼(彼女?)は話を聞くと次のように述べた。


『想い人を助ける手段があるなら何だってしたいと考えるのは当然だ。だが君たちに味方する義理は私には無い。とりあえず通信を送るところまでは協力しよう。それ以降も協力するかどうかは、月の軍が来たときの様子を見て判断させてほしい。』


彼の意見はもっともだろう。彼の立場からすれば、自身が悪事の片棒を担がされるかもしれないのだ。彼の発言からは、報酬さえ良ければどんな内容の依頼でもこなすというタイプではないことが伺えた。そして、月に行くには彼の協力が必要不可欠である。俺とイナバは月の機械を扱うことは出来ないし、月にたどり着くのも縁のある彼に同行してもらうのが望ましい。つまり、俺達は月の侵略者との対話で、正義がこちら側にあることを彼に示さなければならない。


彼の力とイナバの力を借り、月の軍に向けてメッセージを送信した。どうすれば侵略軍を呼べるか考えたところ、イナバが言うには月の統治者である神々は自身らが活動できる神域を欲しているはずだという。そこで俺達は、王都近くの神域である、時の世界樹を制圧したというメッセージを送れば、神々が様子見に先遣隊を出すのではないかと考えた。ただし、末端の、それも記憶処理を受けた兵士である兎が神域について知っているとは考えにくい。だから怪しまれないよう、あくまでも報告という形で『時の世界樹を制圧した。』とだけ送った。


しばらくして、端末にメッセージが届いた。すぐに月の妖精を呼び、解読してもらう。


『ご苦労だった。次の満月の晩、援軍を送る。』

どうやら無事食いついたようだ。次の満月の夜、時の世界樹に来てもらうよう月の妖精に伝えた。



辺りに夜のとばりが下り、真っ黒な空に星々と満月が輝く晩、俺達3人は静かに宇宙船を待っていた。場所は世界樹の麓、バキュー平原である。木々が生い茂る真っ暗な森が広がっている世界樹だが、その中にあるバキュー平原だけは木の一本も無い。木を植えても生えないらしく、一説によれば誰かが呪いをかけたなんて言われている。誰が何の目的でそんな事をするのかは見当もつかないが。

何にせよ宇宙船を待つにはこの上ない場所だ。カンテラを囲んで座りながら空を眺めていると、流れ星のようなものが光った。しばらく見ているとこちらに向けて何かが近づいてきていることが分かった。


「来たか……。」

ランタンを持ち立ち上がる。近づいてきた物体は長さ50mはあろうかという巨体であった。空気抵抗を減らすためか流線型のフォルムをしている。銀色で光沢を帯びた船体は、夜の闇を溶かし込んでいた。


ゆっくりと動きを止めた船を、息を呑んで見つめた。しばらくしてハッチが開き中から次々と人が降りてくる。透明化しているのか、実際は姿が見えないので足音等に基づく推測なのだが、おそらくは100人ほどだろう。最後に司令官と見られる男が出てきた。軍服姿で頭にはうさ耳を生やしている。


「ラブリ伍長の姿が見えない……。これは罠ということか?地上人。」

司令官の男は余裕のある態度でこちらに言った。


「だとしたらどうするんだ?」


「いやいや、伍長が居ようが居まいが我々のすることは変わらない。待ち合わせ場所にいた者を全て始末し、時の世界樹を制圧する。そして神をお招きして、ここを拠点に地上全土を征服するのだ!」

こいつは兎からの連絡であろうと、地上人からの連絡であろうと、連絡したものを始末し、地上侵略基地の構築を自身の功績として報告するつもりだったらしい。

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