第15話 縁結び
能力がどう役立つかを問われたイナバは、額に手を当て少しの間考え込む様子を見せた。
「私の能力は『縁結び』なわけだが、ハティ殿に聞きたい。君と兎嬢との間に『縁』はあったと思うかね?」
「当たり前だろ。兎と俺が出会ったのは偶然だ。あの日仕事で秋の山へ魔物退治に行っていなかったら会わなかっただろう。」
「そうだろう。宇宙船の墜落時に生き残るのが兎嬢ではなかった可能性もある。君以外の人が討伐の仕事を受けていた可能性だってある。だが起こり得る事象の中には君と兎嬢が出会うというのもあったわけだ。」
「縁とは偶然のことで、お前の縁結びの能力は起こりうる偶然の中から意図したものを選べる。お前が言いたいのはそういうことか?」
「ほう……!偉く物分かりがいいな。厳密には条件があるが大体正解だ。ならそれより作戦にどう役に立つかを話そう。」
「君の作戦は通信機を使って月から侵略者を呼び寄せ、彼らを倒して宇宙船を乗っ取る。あっているかね?」
「正しい。」
「私の能力を使えば侵略者を呼べる可能性が高まる。対象も高位の軍人を呼ぶことが出来るだろう。乗っ取った宇宙船で月に無事到着する可能性も高くなるだろうな。」
確かにそこは
「それは有り難いな。だがまだ懸念点がある。通信機は特殊な言語が使われているようで少なくとも俺には使えなかった。」
「なるほど。私も月の機械言語を扱うことは出来ない。だがまあそれくらいなら問題はない。」
「何?」
「私の能力の使用には月との縁が要る。だから月の妖精の力を借りるつもりだったのだ。妖精のモチーフは彼らにとって思い入れがあって、尚且つ死の直前に意識していたものだ。月との縁を借りるのに彼ら以上の適任も居まい。」
縁……。ここで言う縁は過去の偶然により生まれた繋がりということか。
「能力を使うのに縁が要る、と言うのは目当ての事象を手繰り寄せるには強いつながりがあった方が成功しやすいということか?」
「その通りだ。例を見せよう。」
そう言ってイナバは銀貨を10枚取り出してテーブルの上に投げた。放られた銀貨はすべて表を上にして止まった。
「『表が出る』という事象と私の間にはすでに太い縁がある。何度も硬貨の表を出したことがあるからな。だが、投げた『硬貨が立つ』という事象を引き寄せようとすると……。」
イナバは話しながら集めていたさっきの銀貨をもう一度投げた。硬貨は10枚とも表裏をバラバラにして倒れた。
「こんな風に失敗するわけだ。縁が細いからな。」
「俺は何度も投げて硬貨を立てたことがある。俺の縁を借りればお前は硬貨を立てることが出来るのか?」
孤児院で幼少期を過ごした俺は友達もおらず、かと言っておもちゃを買ってもらえるわけでもなかった。そのため1人でコインを投げて遊んでいたことがあった。
「やってみせよう。」
イナバはもう一度硬貨を投げた。放たれた硬貨10枚はすべて
「これが『縁結び』の能力だ。ご理解いただけたかね?」
「すごいな!イナバがいれば月に行くのも現実味を帯びてきたぞ!」
「……そう褒めるな。その、恥ずかしいだろう……。」
褒められ慣れていないのか、イナバは
「そうか、すまん。それで、言語の問題はどうやって解決する気だ?」
能力の使用条件を整理すると2つ。1つ目は対象の事象が起こりうるものであること。もう1つは能力の対象と過去の偶然により縁が生じていることである。
後者は成功率に影響するだけだが、前者に関しては必須条件だ。
そもそも月にメッセージを送ることが出来なければ、『連絡を受けた月の軍が地上に向けて船を飛ばす』ことはない。つまり、能力の使用には言語の問題を解決し月に通信を送れるようにする必要がある。
「それも妖精が解決する。彼らは妖精の転生体を受肉する際、あらゆる言語の読み書きが可能になる。特殊な機械言語でも例外ではないはずだ。」
「じゃあ月の妖精と会ってみるか。」
俺達の計画は月の妖精の協力が前提となっている。そして、悪神の支配から月の民衆を解き放つという大義名分こそあれど、俺達がやろうとしていることは善行ではない。上手く説得できるといいが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます