第10話 もう何も恐れることはない

あの日、俺達は英雄になった。王都の君主から勅令ちょくれいとして出されていた、ガツミノタウロスの討伐依頼を達成したのだ。


ガツミノタウロスは50年前、突如として海上に出現した迷宮の主である。豚の頭に牛のような体をもつ二足歩行の怪物で、迷宮の近くを通る船を攻撃し沈める。そのため、交易を妨げていた。


かと言って島に上陸し、討伐しようとすれば迷宮の最深部に転移するという厄介な性質があった。さらには戦闘力も高く、並のゴールドランクの傭兵パーティーでは相手にならない。一度戦闘を開始すると迷宮の外まで追いかけてくる。トラウマになりそう。ブタウシだけど。


そんなガツミノタウロスを死闘の末討伐した俺達は、普通のゴールドランクとは一線をかくす強さの証明であり、偉業を成したものに与えられるダイヤモンドランクのプレートを手にした。




「兎もダイヤモンドランクか。強くなったものだな。」


家のソファーで寝転びながら言った。兎はダイヤモンド製のプレートを頭上に掲げ不思議そうに見ている。まるで実感がないのは俺も同じだ。




「実感はねぇな。英雄ねぇ……。ほんの1年前まではブロンズだったてのにな。」


それが今や王都中の傭兵の中でも片手で数えたほうが早い強さというのだから驚きだ。




「これでずっと一緒に居られるな!」




「……そうだな。」


兎の言う通りだ。これからも俺達はずっと一緒だ。時間も、人も、武力も、貧困も、もういかなる問題も俺達の生活をおびやかすことはできない。起きて寝て、笑って、たまには仕事して、面白可笑おもしろおかしい日々を、しわくちゃな肌の老人になるまで続ける。




「めでたいな!同志、今夜は祝いをしよう!」




「良いぞ。何が食べたい?」




「焼肉だ。」




「あー……。」


何故焼肉を所望したのかはなんとなく想像がつく。昨日ガツミノタウロスを討伐してギルドに戻ったときの話だ。






俺達はガツミノタウロスを討伐後、ギルドの一室に居た。ランクアップの審査をする間、少し待っていてほしいとのことだった。功績を考えればギルドの重役から承認のサインを得るだけらしく、形だけの審査はすぐに終わった。そして今ギルドの受付嬢から賞状とダイヤモンドプレートを渡された。そしてダイヤモンドランクについて説明を受けるはずなのだが……。




「聞きましたよ!あのガツミノタウロスを倒したのですね!!」


受付嬢はいつになく興奮している。正直討伐でくたびれているので、さっさと説明を聞いて帰って早く眠りたい。




「ええ、そうです。あの、説明を……。」




「気になりますよね!!ガツミノタウロスの胃がガツの味、ミノの味なのか。謎でしたよねぇ!?」


焼肉は好きだが、ホルモンはあまり得意ではない。特にガツミノタウロスは食べたくない。




「いや、違うんだ。兎が聞きたいのは……」




「今までの有識者の見解では、牛の体なのだからミノ味というのが主流でした。しかし、その通説は覆ることとなりました。そう、あなた達がガツミノタウロスを討伐したことでね!!実際に調理されたガツミノタウロスの胃を食べた者の評価では、10人中……(中略)……そんなわけでガツとミノの中間の味がすることからガツミノと名付けられたのです。」




その後もガツミノタウロスの話が続き、ダイヤモンドクラスについては最後に軽く言及された。その強さは国家間の戦争ですらその勝敗を大きく左右できるほど。対魔物であれば真龍しんりゅうすらも軽くひねる事ができる逸脱いつだつした強さであるという。それだけの強さがあると公的に認められたらしい。




でも俺達の生活は今まで通りだ。今日だって、いつもの如くランクアップしたから祝いに行く。兎との変わらない営みだ。




夕食時になったので兎と焼肉屋に来た。小さな焼肉屋で七輪しちりんを挟んで対面に座る。席についてとりあえずエールを注文する。すぐにエールが来たので乾杯をして口をつけた。七輪の熱を感じながらメニューを見る。




「同志、適当に注文するぞ。いいか?」




「助かる。俺はホルモン以外なら何でも……」


そう言ってメニューをめくっていると何かが目に留まった。




『ガツミノ入荷』


パタン

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