第9話 一泊二日温泉旅行 ④

「あー、安心した。こんなに赤裸々に打ち明けたのは初めてだったからな。」


兎の返答を聞いて力が抜けたのか椅子にベッタリと貼り付けられる。




「普段の同志は素直じゃないからなー。」




「うるせぇ。」


さっき最近は素直って言っていただろ。




「そういえば何で素直じゃないんだ?」


言われてみればなぜ自分が捻くれているか分からない。




「考えたこともないな。……だが俺は怖がりだからな。素直に話して相手に拒まれるのが怖いんだと思う。」


本当はずっと兎に一緒に居てほしいと伝えたかった筈なのに、その気持ちから無意識に目を背けて言語化しようとしなかった。今日だって兎が素直に思っていることを話してくれなければ、俺から気持ちを打ち明けることはなかっただろう。




「兎と逆だな。兎は何でも話してしまう。」


思い返せばこいつは初めて会ったときも敵同士だというのにお喋りなやつだった。でもそのおかげで兎と今一緒にいる。




「怖くないのか?拒まれるのが。」




「当然怖い。でも上手く出来ないんだ。距離感の調整が。兎を受け入れてくれたのは同志、お前だけだ。」


俺もこいつも人との距離感を上手く掴めないのか。たまたま壊れた距離感同士が噛み合って上手くいっているようだ。




「俺の気持ちを引き出せるのも兎、お前だけだ。」




「そうか!兎は嬉しいぞ!互いにとってかけがえのない存在で、心から一緒に居たいと思っていることがわかったからな。改めてよろしく頼む、『同志』!」


同志か。そうだ、俺は兎の同志だ。志を同じくする仲間だ。




「ああ、よろしくな。話に付き合ってくれてありがとう。」


おもむろに椅子から立ち上がる。願わくば、ずっと同床同夢を見ていたい。




「寝るのか?」




「そうだ。おやすみ。いい夢を。」


そう言って俺は布団に入った。




「兎も寝る。おやすみ。」


兎も自分の布団に入った。しばらくすると、すうすうと寝息を立て始めた。俺も寝てしまおう。




「…………。」




ガサッ




「…………同志は寝たか。」




スッ




「起きてるわ。」


「うわっ!!」




「何だ同志、起きていたならそう言え。」




「うるせぇ。何でいきなり布団に入ってくる?」




「……酒を飲むと眠れない。」


こいつアルコールが入ると寝付きが悪くなるタイプか。




「それで何で俺の布団に入ってくるんだ?」




「同志はいい匂いがするからな。眠れそうだと思った。」


初耳だ。誰かに言われた覚えはない。……そもそも友達もいないが。




「まあ酒を勧めたのは俺だしな。良いだろう。好きにしろ。」




「じゃあ兎を寝かしつけてくれ。」


こいつ、図々しいな。




「……それで、寝かしつけるって何をすればいいんだ?」


孤児院では物心ついてから誰かに寝かしつけてもらった記憶はない。




「兎に寄り添え。」


兎は横になったまま手招きをした。




「出来るか!!恥ずかしいわ。」




「いいのか?」


兎はニヤリと笑うと掛け布団を自分の方に引っ張った。




「寒い……。」




「こっちに来い、同志。兎の勝ちだ。」


兎は何故か勝ち誇っている。なんだか負けた気がするが、渋々兎のそばで横になる。兎は俺にも布団をかけると抱きついてきた。




「おやすみ、同志。いい夢を。」


兎の温かな体温を感じながら眠りに落ちた。




兎との幸福な日々が続きますように。

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