第3話 うさぎブロンズ(前編)

回復した兎と俺は傭兵パーティーを結成した。報酬は折半だ。衣食住も共にするようになった。初仕事は王都近くの山の魔物退治だった。



「初仕事お疲れ様だ同志。」


初仕事の祝いという体で酒場に飲みに来ている。兎を見ると上機嫌で酒をあおっている。病み上がりだから程々にしておけよな。




「俺のじゃねえよ。」




「知っている。兎と同志、二人の初仕事だ。機嫌悪いのか?……いや、同志は……。」




「なんだ。」




「嬉しいのに素直じゃない。祝いをすると言い出したのも同志だしな!」




「…………。」


別に本心で不機嫌なわけではないが、少しムッとした様子を見せてしまう。




「悪かった、許してくれ同志。兎はお前と楽しくお酒が飲みたかったんだ。」


兎はシュンとして頭を下げた。




「……俺の方こそ、悪かった。」




二人の間に沈黙が流れる。夜の酒場は活気に満ちているが、このテーブルだけ空間から切り取られたようだ。




「!!!」


俺はジョッキに入ったエールを一気に飲み干した。




「すみません!!エール2つ追加でお願いします!!お前もエールで良かったよな?」




「同志……!!」




「俺も、お前と気分良く酒を酌み交わしたかった。好きなものを好きなだけ頼め。一緒に話をしよう。」




「ああ、何から頼もうか!地上のものはどれも美味いから迷うな!」


兎は目を輝かせながらメニューを見ている。




「そういえば兎。」




「どうした同志?」




「装置の様子を見に行ったんだろ?どうだったんだ?」


装置とは救難信号を送る装置である。携行出来る大きさで部隊の構成員全員に配備されていたらしい。救難信号は軍の仲間や月の本部に届くと言っていた。山の中で暮らしていた場所においてあったので、今回の依頼のついでに見に行ったようだ。




「ああ、救難信号装置のことか。あれは……。」


さっきまで明るい顔が急に暗くなった。メニューをめくる手も止まっている。




「あれに……信号を受信した記録はなかった。仲間は兎も角、本部に届いていないはずはないが……やはり兎は…………。」


兎はそこまで言うと慌てて笑顔を作り直した。




「た、大したことはない!もうスイッチも切ってきた。気にするな!それより同志、お前は何が食べたい?兎はこの、ベーコン?チーズポテト焼きというのを食べてみたいぞ!」




「……俺もそれを頼むか。」




「あ、ああ!一緒に食べよう、同志!」




その後は何事もなかったかのように祝宴は進行した。兎はあれからずっと上機嫌で出てくる料理や酒を喜んで堪能していた。


そして帰り道。

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