本とお酒と珈琲と

戸部 アンソン

第1話 ふー


通りを歩く人が減りウルトラマンの影が伸びた。


オレンジ色の黄昏が迫る薄曇りの空。


窓際のダウンライトが付いた


刹那


「もうすぐ誕生日なの」


ミカがそう言った。


それはお祝いしなければ、


なぜかその日その時「本とお酒と珈琲と」に居合わせた全員がそう思った。


ここは世田谷区祖師谷大蔵駅近くの

300冊ほどの本読み放題のお店


本棚には

本屋大賞

直木賞

芥川賞

各賞の近年の受賞作品や

ちょっと前の女性作家の作品

海外の翻訳本かなり昔の純文学もマンガも在る。


自分じゃ買わない本を、ワインや珈琲を楽しみながら読み耽る事ができ場所。

わかりやすい店名


【本とお酒と珈琲と】

半年程前に出来た。


ビルの2階にあるのでつい通り過ぎてしまう。

立ち止まり、確かこの辺にあったはず

そう思ったところに必ずある。


店内に一度入ると、居心地の良さに長居をしてしまう場所。


その日たまたま居合わせた4人は、さほど本を読まない。


どちらかと言うと、本について話がしたいのだ。

読んだ本の話はしたいけれど読書会独特の青い闘いは避けたい 。


なぜなら一駅隔てた成城学園前駅や千歳船橋駅辺りから歩きで来てる人もいる。偶然何度も会う事がありそうな人達。

そうなると、ある程度の距離感が必要である。


長く住み続けるために。


くっつき過ぎると磁場が狂って両方無事でいられない、まるで衛星のように距離をとる必要のある間柄。


上手に距離が取れず、思いっきり他人との距離を取り過ぎて、宇宙の彼方に飛ばされてたどり着いた4人かもしれない。


ここ祖師谷はウルトラマンの生みの親、円谷プロダクションがあったため、商店街には今でもウルトラマングッズが飾られている。


今もウルトラ星雲の中なのかもしれません。


距離の取り方は難しい課題だが、次の土曜日2月11日にミカの誕生日祝い

を執り行うことが決まった。


「今年で39歳になるんだって!」

「仕事続けてたら独身!」

「でも明日は出会いアプリで出会ったひとと3回目のデートだそうな。

ディズニーランドに行くんだって。」


「じゃあその方もミカさん誕生会に呼びましょう!」と

私が言う


「彼氏じゃないから」とミカさん。


「歳下なんだろう?!やめとけやめとけ!!」と高橋さんが言う


「あら良いじゃない、売り上げに貢献して頂けるし」と

安田マママ。ここの店長である。




「4回以上会って嘘続けるなんて難しいからね、どんな方なのか?経済的にどうか!早めに調べちゃいましょう!」


と私


「そうだな割り勘とか言って来たらダメだ」と高橋さん。


「一緒にどっか出かけて、あ、お金足りない」とそいつが言ったら

「ミカちゃん払う?」


「状況によっては払うかも」とミカさん。


「そんなんダメだ駄目だ!歳下は金目当てに違いない」

高橋さんがハイボール追加


「そりゃお金は大事ですが、それだけじゃないじゃないですか、フィーリングとか」と安田ママ。


話ながらハイボールもう持って来た!マッハ15のスピードだ。


既に準備済みってことは、これから始まる

大レースとおもいきや


「20時閉店よねっ」とミカさんが真っ白なダウンコートに袖を入れる。


それを合図に私もボア付きの帽子をかぶる


とてもあったかい。もう3年も同じ帽子をかぶっていることに気が付いた。あまり古いものを身に着けていると貧乏神が寄ってくる。バブルの頃に流行った風習を思い出した。ウルトラマンがシュワッチと飛び出した時代は高度経済成長期の始まりの頃だった。


高橋さんもイソイソとマフラーを付けている


じゃあ

2月11日ね


サンドイッチ用パン持ってくる

ケーキは任せて


声が聞こえている。



私は絶対「花」だな


あんまり大袈裟ではなく

分けて、店内にも飾れる25センチに揃えてもらおう。


祖師谷大蔵駅周辺には4軒花屋さんがある。


駅からちょっと距離があるけど、

成城方向に行った所の花屋さんにしよう。

あそこの花は長持ちするから。


待てよお、その日だけ最高に美しいのが良いかなあ?

それなら

オサレにラッピングしてくれる、駅から木梨自転車屋さん方向に歩いた所の花屋さんかなあ。


駅から1番近くの花屋さんは値引き商品を出すから、定価で買う気がしないんだよなあ。


値引き品は買わない

結局、定価でも買わない。


さてマーケティング問題です!

この花屋さんはいったいどうしたら良いでしょうか!


高橋さんなら、そんな買わない客は、ほっとくだな

祖師谷大蔵駅乗降客日に3万6千人も居るんだから一見さん相手で大忙しだ。


駅から遠い花屋は地元の固定客狙いになるから、長持ちとか根を張るとかに集中するだろう。とか言いそうだな。


そうすると

安田ママが

「バルタン星人って腕が顔より大きいのは

気の毒だ」とか言いそう。


商店街の中で飲食店の戦略の話しにならないよう話題を変える作戦。


バルタン星人の腕はデカい


確かに


じゃんけんでチョキしか出せないとずーっと思っていたが腕デカ過ぎ、そういう問題もある。


ミカさんが

「バルタン星人の元デザインはアブラゼミですって」

とネット検索しながら呟く

「アオバカゲロウだと思うとけどなあ」


と新説


アオバカゲロウか確かに似てる、儚いイメージもピッタリ

目も赤いし

え?バルタン星人の目はあかかったけ?

青く光るのでは?


もう駄目全然覚えてない


じゃあ

ウスバカゲロウで新怪獣つくらない


「薄バカやろうがどうしたって?」と高橋さん


「今流行りのコロナ怪獣作ろう」って戸部さんが言い出したところですよと安田ママが解説。


「コロコロすぐ死ぬのが武器」

「とっても弱いの」

だってウスバカゲロウって短命でしょうが


「コロナ怪獣うす馬鹿野郎」か


「全体に白っぽくてウスバカゲロウみたいな

かっこうしてて、匍匐前進しか出来ないの」



「円谷プロに新怪獣にしてもらおうよ」


「東映のゴジラの所に持って行くか?」

あーあの撮影所ね

いかにも芸能人って車が出入りするよね

今度薄馬鹿もってでかけない

産直怪獣

ちょっとまって、アオバカゲロウの幼虫がモデルなんですってば!


かくして、怪獣をみんなで作ろうという話で[本とお酒と珈琲と]店内での初対面の日が終わった。



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