第5話 4泊目

 入院している部屋は4人部屋でした。カーテンに囲まれ、ほぼ目を閉じていたとはいえ、私の隣のベッドの方はいわゆる寝たきりの方かもしれないと思いました。詳細は書いてはいけないと思うので省きますが、看護師さんがケアに現れて「起きてるー?〇〇するからねー」と声をかけてるのを聞いたりしているうちに、あ、さっきから起きてますよなんて私が心の中で勝手に返事。顔も知らないのに気配でなんとなく。


 そして向かいのベッドの一緒に明日退院するとなった推察70代の方と私が家族の話をしていると隣のベッドから言葉にならないけどご機嫌そうな声がよくあがります。相槌を打って話に参加していらっしゃるとこれまた勝手に解釈。もしかしたら、家族の愚痴へのアドバイスだったりして。 


 もう一つのベッドは検査入院の人など入れ替わり立ち替わり。


 そんな感じの4泊目はフラフラのままベッドの住人のまま、これで家に帰って大丈夫なのかなんて不安になったりして。


 お見舞いは禁止ですが、家族とのSNSのやり取りは自由です。ヒュンヒュンやってくる家族からの連絡をみていると、意外と精神的いっぱいいっぱいなのは相棒で、その相棒と小学生達に挟まれた大学生達は「トイレとお風呂が自立してれば大丈夫だから、精神的にやばい人達のために家に転がってるだけで良いから早く帰ってきて!」と丸太でも私の存在意義はあるのだと力説してきました。


 もう一つ私を励ましたのは、この前庭神経炎という病気は「決して命に別状はない」と調べると出てくる事でした。頭痛はするし真っ直ぐ歩けないし、しばらく活動するともう横になりたくて仕方ない、しんどい。でも命には別状ない。何度この言葉で自分を鼓舞させたことでしょう。


「よし」起き上がって棚の上の鞄を取っただけで、くらっときてひっくり返る。退院の荷物整理だけで大事おおごと。帰ったら、病院のように空調管理はされてないから寒そう。家事はどうすればできるであろうか。そんな風に少しずつ先を考えます。


 そして病院で歩く時のお供にしていた点滴スタンド(点滴が外れても側に置いておいてもらってました。)と別れを惜しみながら夜がふけていきました。


 

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