第2話 1泊目

 冒頭からアレですが、嘔吐したからでしょうか、入院病棟は消化器内科でありました。主治医はフットワーク軽い感じの耳鼻科医であります。入院するかの問いにどうにか返事をすると、


「点滴してるから、無理に食べなくて良いからね。夜からお粥出すから。」


とおっしゃっていたようであります。こちらはなんでも良いのです。兎に角、目を開けられない、頭を動かせない、身体に力が入らない。眼振があると言われた通り目を開けると勝手に視界が動きます。コロナじゃないか検査された後、話すのも億劫おっくうなので心配する家人の手を握り返すのが精一杯で、車椅子でどこからその家人と離れたのかも知らず病室のベッドに横になりました。


 ここに来る前の病院で頭の検査の時に吐き気止めの点滴を左手にしたからか、この大病院では右手の肘に点滴を打たれました。血管を見つけにくいと言われ慣れているためどこに刺されても何回失敗されようと気にしません。


 この日の記憶は時系列的には曖昧あいまいです。看護師さんに聞かれる事になんとか答え、夕方の主治医の回診の時に


「あー左側向いて寝てるか、やっぱり」


「右側向くと気持ち悪いんです。」


「今晩はお粥にしといたけど、食べれるようだったら普通にしていいからね。消化に問題はないから。量が食べれるようになったら点滴減らせるからね。」


などと言われた記憶があります。以前、アニサキスに噛まれ腸閉塞になり絶飲食四日後お粥生活を送った事のある身としては、喉は潤して良く、この億劫な身体でしばらくご飯食べなくて良いでほっとした感じでした。


 夕御飯が運ばれてくる頃には、点滴と注射のおかげでご飯の内容を見るくらい目を開けられるようになりました。


「あれ?この病院はアレルギー気にしないのかな?」


柴チョコは食物アレルギー持ちです。エビだけは命の危険を感じたことがありますが、果物や、牛乳、などは口の中が痒くなったり下痢するタイプで発症したのは成人してから。全て自己発見の自己診断の自己調査ですが、誰に話しても(小児科医、皮膚科医、内科医、耳鼻科医、産婦人科医、管理栄養士等)さらに知識を足してくれるだけで否定されないので自分のアレルギーに関してはちょっと自信持って生きてます。家人にも


「私を殺したくなったらエビを盛るように。他は下痢するだけだから。あ、筍の下痢はちょっとキツイからやめてね。」


と教育しているのでアレルギーについては書類に書いたんじゃないかしら?


 お粥ど定番の梅干しを眺めながら独りごちます。ただ梅干しはアレルギー的には限りなくグレーゾーンであります。リンゴ、チェリー、苺、梨、アーモンドなど梅と似た様な花を咲かせる果物は痒くなったり下痢したり。一回イワシを梅干しと煮た時下痢をして以来梅も発症したかーと避けてきたけど、よく考えるとあれは私のイワシの内臓の処理が甘くたまたまイワシが小エビを食しそれが残っていた説も拭いきれない。うん、家人の記入漏れだ。そう理解した私は梅干しを残し二口三口食べられるだけやはり点滴といいクラクラするせいともいえ、食欲ないまま夕御飯を終えました。


 さて、問題はトイレでありました。身体を起こすだけでふらふらしてしまうため、まだうまく歩けません。紙おむつの選択も看護師さんに聞かれましたが、それを時折自分で取り替える方が大変だと思った私は車椅子で連れて行ってもらうを選択しました。申し訳なく思いながら、ナースコールを押し連れていってもらいます。目をまともに開けられない私はいろいろな可能性を忘れ、呑気でありました。車椅子ごと入れる大きなトイレで


「用が済んだら呼んでくださいね。」


と言われ、のちのちと用を足し近くの呼び出しボタンを押し、片手は掴まりながら立ってパジャマのズボンとパンツをあげていたら、最速で駆けつけてくれた看護師が


「申し訳ありません!別の人を呼びます!」


と野太い声で悲鳴のような謝罪をあげました。若い男性看護師にとんだ痴態を見せてしまったらしいです。咄嗟に


「気にしてませんよ。構いません。お願いします。」


と声をかけると


「大丈夫ですか?」


いろいろな配慮をその言葉にこめながら車椅子を押して手を洗わせてくれ居室まで連れて行ってくれました。


 利き手の右には点滴、掴まらないと立っていられない、目もうっすらとしか開かない、パンツ片手で上げるの大変、そんなすぐに来るとは思わなかった。男性看護師がいるとは知らなかった。で、起こってしまった事ではありますが、それからは用が済んでからなんとか車椅子に座り直してからブザーを鳴らすように成長したので良かったと思います。


 そんな1泊目でありました。

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