第5話② 知子、35歳の恋(2)

「美しい・・・」

その人は照れもせずにジッと、私を見つめて呟いた。


映画俳優のような超、イケメンではない。

でも、そこそこ甘いマスクをしている。


何より。

私を飽きさせない饒舌な会話。


夫は食事中も黙ったまま。

美味しいとも、あまり言わない。


でも、この人は。

料理を口に運ぶたびに感嘆の声を出す。


本当。

うるさいくらいに。(笑)


それが、凄く新鮮で。

私の作った料理も、そんな風に褒めてもらえたらと思ったりしたのです。


※※※※※※※※※※※※※※※


「知子、ともこ・・・?」

「えっ・・・・?」


何度目のかの問いの後。

私はようやく、返事をしたらしい。


「どうしたの、うわの空で・・・?」

夫が不思議そうに私の顔を覗き込む。


今日は珍しく夫が外食に連れて来てくれていた。


子供達は学校の行事や友達からのおよばれで家にいない。

久しぶりの夫婦でのお出かけだった。


外食は、あの人とのデート以来。

別に、何かあった訳ではない。


『僕は待っていますよ・・・』

大人の対応の言葉を残して、あの人は帰っていった。


てっきり、一晩を共にすると覚悟していたのに。

あーあ・・・だ。


男って。

格好、つけたがるのかな?


男の後姿を見て。

私はクスっと笑った。


それ以来。

あの人とは会っていない。


メアドも消した。


だって。

面倒臭いんだもん。


だから。

私、自分を変えることにしたんです。

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