34.冒険者ギルドで暇つぶし

冒険者ギルドで落ち合うと言う約束の日、そういや中で会うのか外で会うのか何時なのかを相談してなかったのを後悔ーーーは別にしていない。


昨日と同じように早めに朝食を取り、今日はそのまま冒険者ギルドに来た。中を覗くとまだブラウンさん達は来ておらず、掲示板を一通り眺めるも興味をそそるものはなく、テーブルが空いていたのでここで待ち合わせしてるんだけど、テーブル借りていてもいい?と今日もいたタフィーさんに断って、テーブルの1つを陣取り、コーヒーと本を出して寛ぐ。


異空間があるので、何処でも暇つぶしはできるから待つ時間は苦ではない。

昨夜もお風呂にのんびりと入り、身体もさっぱりしていて気分もいい。



昨日のお風呂では同じく泊まってる宿泊客の商人さんにチラチラ見られるから小首を傾げてジッと見ると、おずおずとお風呂の製作者かと聞かれた。

そうだけど、よく分かったね?と言えば、何日か宿泊していて、食堂での話をちょくちょく聞いていたそうだ。

コーヒー等もホイホイ出し入れしてるのも目撃しているそうで、収納スキルも持ってるし、お風呂の制作も短時間でしてしまうし、かなり魔力もあるでしょう、となんだか探りを入れられた。


何が言いたいの?とまたしても小首を傾げて見つめれば、顔を赤くして、「う.....負けるな、私....」と自分を励ましていた。


ーー結果、何を言いたいかと言うと、商人さんは王都からこの辺りを行ったり来たりの行商人だそうで、最近までずっと道中の護衛の冒険者メンバーは固定して頼んでいたが、その冒険者メンバーが結婚を機に引退したそうだ。それからは行き来する度に冒険者を募っているそうなのだが、やはり当たり外れがありなかなか信頼できる、腕の立つ冒険者とは出会えていないそうだ。


そんな時に宿屋の主人達と仲良く話す俺が現れ、人当たりもいい上に佇まいは品良く(えー、そうかな。照れちゃうな)、おまけに収納スキル持ち、勉強してすぐに実践して成功してしまう魔力センスに膨大な魔力。これは腕が立つ冒険者に違いないと思った!と力説されて若干引いた。だんだん寄ってくるんだもん。お腹タプタプしてるのが触れそうでやだよ。ギトギトした感じじゃないのが救いだけど。



「厨房利用まで許可貰ってお風呂作りしたんです!ここの街をホームにするのでしょう?どうです、都合が合った時でいいのです!ここから王都や、グリーンベリル、遠くても西はオパール王国のボルダー、東はビクスバイトぐらいの西大陸内ですから!私の護衛、引き受けてくれませんか!?」



この人も圧凄い。と思った。

あと地名言われても知らない。

商人さんの名前はヤンファットさん。意外と若い38歳だった。

つい最近仲間が出来たから、相談して決めると保留した。メンバーの名前を聞かれたから言ったら、知ってたらしく、彼らにも声をかけようかと思ってたけどBランク冒険者のパーティなので尻込みしてたそうだ。何でも護衛依頼はCランクからで、報酬から見てもBランクパーティは厳しいかもしれないとか。でも俺がいて収納スキルにあやかれるのなら、報酬上げると言われた。成る程、そうゆう使い方もできるか。収納量には問題ないのでそうなったら別にいいよと言うと喜色満面喜んでた。

いや、相談してOKならね、あと瓶頼んでるから2日後以降ね、と念押した。元々3日後の予定です!次はグリーンベリルです!と言われた。

だから何処。



そんな昨日の出来事を振り返って、ため息を1つして本に視線を戻し、コーヒーを一口。


今日の本は魔道具の本。魔法陣を道具にしたような感じだ。やはりコンロは併設型で、携帯コンロはないようだ。何でだろうーーー割と複雑だからコンパクトに出来ないとか?ーーーコンロの魔道具は風と火の魔法陣が組まれていて、火力調節に5種類くらいの火と風の組み合わさった魔法陣が連なっている。魔法陣を縦にしてプレートを並べていて、それぞれの端が上のコンロ部分に繋がっている感じだ。(へー、火力調節ってそれぞれ切り替えてたんだ。一つの輪っかじゃないんだ。機械じゃないからこその仕組みだね。火力調節の魔法陣とか考えたらいけそうだけど、そこまではいーや。誰かが頑張ってくれ)それぞれのプレートも繋がっていて、コンロの隅の部分の魔水晶ポケットに繋がっている。

確かに大掛かりな作りだけど、3段階ぐらいにしてプレート横にして重ねればよくない?と思って飲み終わったコーヒーセットを洗浄かけて異空間に収納し、鉄のインゴットを異空間から出す。


携帯コンロのサイズをイメージして、先ずは側を錬成。後でプレートをセットするので中は空洞に。地球でガスをセットする所に魔水晶ポケットを作り、側に合わせて大中小のプレートを錬成。さっきまで見ていたページをジッと見て魔法陣を鮮明に記憶し、人差し指からレーザーイメージで魔力注ぎながら魔法陣を刻んでいく。


ん、このままだと板だから重ねてもコンロに繋がんないね。魔法陣に沿ってくり抜くか。

ふんふふん♪と鼻歌歌いながら魔法陣をくり抜く。切り絵のようだ。でも錬金なので自由自在。簡単なお仕事です。


大中小の魔法陣から、大中小のコンロ部分になるように吹き出し口をつけた空洞化した筒を丸く錬成する。よし、形は出来た。でも全て鉄なので火をつけると熱くなって持ち運べないし場所も選ぶだろう。側を含めて全てに保護魔法とついでに劣化防止魔法を施す。

パカリと五徳ごとくつきのプレートを開けて、3つの繋げたくり抜き魔法陣をセットして、火力調整用のレバーと、着火のボタン、魔水晶ポケットまで最後に錬成、魔法陣も繋げる。新たに繋げた部分にも保護魔法と劣化防止魔法を施し、五徳つきのプレートを戻して、完成。あとは魔水晶をーーーー.......



「ーーあ、魔水晶、ないわ。」



シグナルさん用に作ったのしかないわ。

ちぇ、と思って伸びをしたら、多くの人と目が合った。ん?



「おっ前、こんなとこで魔道具作んなよ。ーーで、これ何?コンロだよな?小さいの開発しちゃったわけ?こんなとこではちゃめちゃすんな!」



パシーン、とあんまり痛くないはたきをシグナルさんから貰った。

え、シグナルさん?



「あれ?シグナルさん?ーーと、みんなもいる。いつからいた?」



ブラウンさんはなんだか関心したような顔をして、

サルビアさんは呆れた顔をして、

ハク君は困ったような顔をしてこっちを見ていた。



「魔法陣のプレートくり抜き始めた辺りかな。声かけたんだぜ?聞こえてなかったけど。」



はたいてきたシグナルさんは腕組みして偉そうだ。痛くないけどはたかなくても。

周りを見ると、俺の奇行が目立っていたらしい事はわかる。テヘペロ。



「ーーーいやぁ、本見てたら小さく出来ないものかと思って。便利だよね?持ち運びできたら。」

「ーーーまぁ、な。お前、商人ギルド行ってこれ登録してこい。話はそれからだ。俺ら掲示板見てるから。」

「えーっ。別に後でいーよ。明日出来てる瓶受け取りに行くからその時でもいーし。まだ起動実験してないんだ。魔水晶ないから。あ、シグナルさん、これ、例の魔水晶。

小銀貨1枚でいーよ?」

「ーーあ?」



話の流れで自然と渡すと、シグナルさんも自然に受け取ってくれた。

マジマジと俺の作った魔水晶を見てーー




パシンッ




またはたかれた。なんだよぉー

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