32.口は災いの元?

ヤマメとおにぎりを食べ終えて、ふう、と満足する。

ゴミ箱を探すもないので、ヤマメが刺さっていた棒を結界魔法で包んで高温で燃やす。うん、やっぱりこの方法便利。


棒を持っていた手が脂なのかテカテカしているのと、おにぎりを持っていた手がちょっとベタベタする。ウェットティッシュもあるが、こんな往来でウェットティッシュもどうかと思ったし、服は結界魔法が効いて無事だけど、髪も腸詰めの匂いが染み付いた気がする。ーーーので、息を止めて、洗浄魔法を全身に発動。グルグルっと回転する温いお湯と光が収まる頃には、手も髪もさっぱりだ。ついでに靴もピカピカになった。


よしよし、と頷いて商人ギルドへ向かう事にした。



ーーーーーーーー

ーーーーー


「これがサンプルとなります。」

「ーーーうん、どれも綺麗ですね。ーーーどれでもいいですよ?」

「ーーーえぇ?もう少し迷われては?」



商人ギルドについて、早速プランプさんが瓶のサンプルをいくつか出してくれたんだが、みんなちゃんと漏れないように捩れた蓋だし、側面クリスタルガラスの荒めのカット指定したんだがより細かく入ってたりして、背景の薔薇の蔦も鷲も装飾した Aの文字もどれも指定以上に繊細だ。何これ立体になってんの?すげぇ。



「これの中で1番簡単なのでいいですよ。どれも素晴らしくて良し悪しは俺じゃわかりません。強度はそこまで気にしなくてもいいです。劣化防止魔法を使いますから。」

「え......何防止と言いました?」

「劣化防止。結界魔法の親戚ですかね。ガラスでもかけたり割れたり、変色もしなくなります。汚れはしますよ。洗えば劣化せず汚れを落とせるって事になります。」

「そんな魔法が.....な、何の属性の魔法になりますか?無属性?」

「俺がこの魔法を使えるようになった時のイメージは、闇と光と無属性の掛け合わせですけど。」



イメージはかけるものの周りの空間の時を止める感じ。そう言うと時魔法とか時の精霊様云々言われてしまいそうなので言わないけど。実際闇と光と無で完成したのだ。闇だけのイメージだと飲み込み消失し、光と闇を合わせると透明になり、ならばと無属性に分類される空間を掛け合わす事で完成した。


収納スキル持ちは無属性を持っているっていうのは、空間魔法を使っているって事だよね。収納スキルで入れたものは劣化しないっていうのも、闇と光が関係しているんでは、と思うけど、その辺はこっちで読んだ本にも俺と似たような見解してるものもあって、それでは収納スキル持ちが必ずしも闇と光属性を合わせ持ってない事から否定されている。


俺の異空間?バッチリ闇と光と空間魔法だけど、∞収納だしここの世界と同じに考えたらいけないと思う。何でも思った通りに使えるチート能力、なんなら時も止められるからね。時の精霊様とやらと契約しなくても標準装備だよ。よっぽどの事ないと止めないけど。


あ、待って。もしかしてこれって付与になるよね。結界魔法も付与だもの。マジックバックに応用できるかもしれない。



「ーーキさん、アキさん!」

「ーーーん?」



思考が斜めにいきそうだったのをプランプさんに呼ばれて引き戻された。



「精霊の世界に行ってましたか?すみません、戻ってきて下さい。」

「ーーあ、いえ、マジックバックってもしかしてこういう事かも、と少し脱線して考えてました。すみませんお話中に。劣化防止の魔法の話でしたっけ。」

「そうです!闇と光と無属性の掛け合わせって!洗浄魔法も使えると言うし蜂蜜の容器作ったの木属性ですよね?いくつ属性持ってるんですかーーーーってマジッーーっマジックバックですって!!??」

「あ、いえ、可能性の話です。そのうち試します。」

「なーーーっそのうち!?そのうちっていつです!?すぐ!すぐして下さいよ!出来たら薬師ギルドでアダマンタイトですよ!?出来たらこちらに卸して欲しいです!!!!」

「気が向いたら?成功するかなんてわかりませんよ?それに色々順番に作ってみたいので。あ、俺、一昨日おととい仲間が出来たんです。冒険者も頑張ります。」

「そーーーー........んなぁぁぁ......」



ガクーーッと項垂うなだれたプランプさん。ごめんポロッと口からこぼれたけどマジックバックなんて完成させたら生産の嵐で身動きできなくなりそうだから暫く試さないわ。


瓶のサンプル品は全部で10種類あったのでそれは買い取った。小銀貨1枚渡して異空間に入れていると、昨日のシャワーと万年筆の仕様を公開すると作りたいと言う人が既に結構いるんだとプランプさんが話し出した。



「目敏いというか耳が早いと言うか、凄いですね。昨日ですよ?」

「商人は色んな所に眼を光らせていますからね。ギルドは情報も集まりやすいですし、新しい情報がないか、立ち寄るのが前提です。特に夕方に商人同士でも情報交換していたりしますね。」

「マメじゃないとできないですね。商人は俺じゃ無理そうだ。」

「アキさんは生産者寄りですからね。錬金なさるもので、変わったものがあれば是非当ギルドに卸して下さい。」

「わ、ちゃっかりしてる。そうだ、昨日味つきポーション作ったんですよね。味つきのポーションていくらで買い取ってくれます?」

「味付きですか?薄まって微効果のものしか出来ないと言われていますけど.....?」

「ーーーーあれ。.....やめとこうかな.....。」

「え!?もしかして普通効果のができたんですか!?何故やめるんです!?」

「既存であると思ってたので.....目立ちそうですし。」

「作る瓶も変わってる事ですし、味付きポーションが成功してるならより高価で売れますよ!味見をさせて頂けるなら、薬師ギルドと相談して買い取り価格決定します!」



ずいっと両手を出された。味見を出せと。

ため息を1つついて、自分で味見用に作った瓶を4つ出す。りんご味は特大になっちゃったので、良品の梨と柿、普通のみかんとメロン味。



「味見用に作ったものなんで8割しか入ってませんけど、良品2つと普通2つです。品質の違いで味の変化はありません。使った果物は1瓶につき1つずつです。」

「瓶依頼してる最中で余裕ないですもんね....ジャムの瓶ですか?」

「はい。あ、ちゃんと洗浄した後ですし、味見も別に小さなグラスに移したので綺麗ですよ。」

「了解です。それも伝えます。いやー、まさか良品まであるとは......。アキさんには驚かされてばかりです。」

「そんなに難しくなかったですけどね?」

「他の薬師や錬金術師の方に言ったら泣かれますから他で言わない方がいいですよ。アキさんならすぐに上のランクに行けそうですね。」



それはどっちのギルドの話かな。

あっちもこっちも手を出しといてなんだけど、なんとなくやってみたいからやっただけで、そこまで忙しくはしたくない俺がいる。

やりたい事だけやってたら、駄目かな?

曖昧に笑って、商人ギルドを出た。

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