31.とりあえずニコちゃんは可愛い

寝坊できないな、振動式の目覚まし出しましょ、と異空間から出したのは自分だけど、朝決めた時間に振動したらビックリして飛び起きて、その存在に気づいて微妙な気持ちになった俺です。おはよう。


この世界じゃ確実にオーバーテクノロジーだけど、一見ただの時計だから大丈夫でしょ。うんうん、と1人で言い訳して納得しつつ、目覚まし用の時計を異空間に戻してお気に入りの時計を出して装着する。


んーーっと伸びをして、着替える。

因みに俺は宿屋ではパジャマ派だ。

洗濯籠に脱いだパジャマを入れて(肌着は自分で洗浄魔法使って収納してる。他のもしろという事になるが、宿の収入源は積極的に使おうと思っているので)、二重襟で中が黒、外が白い丸首襟高シャツと黒のスラックス、黒のベストを着る。薬師ギルドの銀バッチはベストにつける。今日は屋台でくまベアーの腸詰めパン包み(どう見てもホットドッグ)の腸詰め焼くの見ながら収納する作業と、商人ギルドでポーション用の瓶サンプル確認だけだから、楽な格好かつ綺麗目だ。腸詰め焼く時脂が飛んだりも嫌なので自分の服に結界魔法をかける。これでウォータープルーフもびっくりの完璧防御だぜ。


この宿の朝食は6時から開いていると聞いていたので、6時20分に向かった。ここから噴水広場まで30分とかからない。腸詰め焼き始めるのは8時と言っていたので、余裕だと思う。


1階に降りると、受付に昨日売った薬用シャンプーと石鹸が値札付きで置いてあった。

その横に何やら書き物が。近づいて読む。


『お風呂始めました。(12時〜20時半)

宿泊料 素泊まり 大銅貨5枚

    朝食夕食付き 大銅貨8枚

入湯料     小銅貨7枚

タオル貸し出し 小銅貨3枚

桶とお湯のみ  小銅貨5枚


洗浄魔法1回 大銅貨1枚』


料金表だね。今までのプラスお風呂の料金だ。



「あらアキ君。今日は早いのね。これから朝食?」

「おはよう女将さん。そうだけど、これに気づいて見てた。料金表作るなんて素早いね。シャンプーは貸し出しじゃなくて販売にしたんだね?」

「商売だもの。アキ君の言ってた男女分けの布もちょうどいいのあったから下げたわよ。シャンプーは貸し出ししちゃうと分量困っちゃうから。少し使う人と多く使う人といるでしょ。」

「そうかぁ。そこは考えてなかった。流石女将さん。」

「ふふ。お風呂はお昼から20時半までにしましたー。」

「遅くならないように帰んなきゃだね。」

「冒険者さんは言ってくれたら融通効かせるつもりよ?」



昨日のお風呂の一件で女将さんともフランクに接するようになって、こんな会話も楽しい。お風呂も入れるようになったし、女将さんは美人だし、ニコちゃん可愛いし、ニコちゃんパパとも仲良く話せるし、台所も入り放題になったしで、もうここの街のホーム決定だな。



朝食をとって、コーヒーを異空間から出してまったりしてると、ニコちゃんがご飯の時間なのか朝食のプレートを持ってこちらに来た。

「アキ君、おはよう!ここ座ってもいい?」

「おはよう。勿論いいよ。朝会うのは初めてだね?」

「いつもは神殿にお勉強に向かうからね!7時半には出てるよ!今日は5日で風の日だからお休みなの!風と、闇と、光の日は神殿でのお勉強はお休みなんだぁ。でも宿題があるの。」

「そうなんだ。神殿は風と闇と光の日が休みなの?」

「ううん、神殿はいつでも開いてるよ!勉強会が水と、火と、木と、土の日だけなんだよ。風と闇と光の日は神殿に来る人が沢山だから、休みなんだって!」

「ふうん?」



商業ギルドでカレンダーを確認した時分かった事は、月はそのまま月で言うらしく、今は4月だという事。曜日は属性と同じ並びだった事。地球で言うげつすいもくきんにちがここではみずつちかぜやみひかりとなる。呼び方は今ニコちゃんが言ったように「◯の日」と呼ぶようだ。


と、言うか何。今日4月5日なの?じゃあ俺がここに来た日4月1日のエイプリルフールじゃん。嘘みたーい。

エイプリルフールなんてここじゃ関係ないけどさっ



「アキ君が飲んでるの、コーヒー?って言うんだっけ?苦いんだよね?」

「うん?そうだねぇ.....?」

「匂いは凄くいいよね!他のお客さんが、アキ君がここでご飯の後に飲むようになってからコーヒー注文できないのかって聞いてくるようになったの。パパとママがメニューに入れるかけんとー中?なんだって!ーーーでも、どうして苦いのにみんな飲みたがるの?」

「この味が好きな人は好きなんだよ。そのままじゃなくて、ミルクと砂糖入れたら、ニコちゃんも飲めるかもよ?」

「ミルクと砂糖......ぜーたく!」

「飲んでみる?」



ニコちゃんも食べ終わったみたいなので、異空間からコーヒーと牛乳と砂糖を取り出す。コーヒーはポット、牛乳は瓶、砂糖はコーヒー用に喫茶店でよく見る入れ物に入っているグラニュー糖。コーヒーはよく飲むのでコーヒー系は俺の異空間に豊富だ。まぁコーヒーに限らず手に入れられる時は割と何でも手に入れるのでシャンプーボディーソープタオル始め俺の異空間は割となんでもある。おにぎりとか作りたてからコンビニおにぎりまで沢山ある。

こっちの世界じゃ砂糖は高価みたいだから喫茶店でもメニューに最初からブラックと砂糖入りとミルク入りとミルク砂糖入りとでそれぞれ別価格で載っていたけど。カフェオレって言葉は浸透していないのか名前がついていないのかは知らない。



「ミルクを3分の1入れてーーあたためる?火傷しないようにこのままでいっか。熱いコーヒーを入れて、砂糖は.....2杯くらいかな?後で足してもいいよ。スプーンでかき混ぜてーーーはい、どうぞ。」

「わー。砂糖サラサラで真っ白だね!変わった入れ物!えっと、いただきます!ーーー美味しい!これがコーヒー!?全然苦くない!前にペロッと味見させて貰った時と全然違う!」

「気に入ったようでよかった。でもコーヒーは1日に何回も飲んだら身体に悪いんだよ。3杯くらいが目安かなぁ?砂糖なしで3杯くらいなら逆に健康に良いって話もあるけど。太ってる人とかね。でもトイレも近くなるし、夜飲むと慣れてないと眠れなくなるかもしれない。」

「そうなの?飲んだらいいのか悪いのかわからないね!」

「何事もほどほどにって事だよ。健康に良いからっていっぱい飲もうとしたり、身体を動かしすぎたりしてもダメだよって事かな?疲れたら倒れちゃうでしょ?」

「あ!私それ知ってる!あんまり頑張りすぎてもダメ、ちゃんとからだを休めなさいって神父さまも回復師さまも患者さんに言ってた事ある!」

「ーーーーうん?まぁーーーそういう事かな?」



なんとなくズレてるような、ズレてないような。ほどほどにってのは合ってるか。


その後もほのぼのニコちゃんと会話して、7時半になったのでニコちゃんに行ってきますの挨拶をして宿屋を出た。



ーーーーーーー

ーーーー


噴水広場に着くと、チラホラ屋台の準備をしている所で、既にしっかりと屋台の準備が整い煙を上げている腸詰めパン包みの屋台が目に入った。



「おはようお兄さん。早いね。」

「ーーおぅ?おお!綺麗なあんちゃん!はよーさん!今さっき焼き始めたとこよ!」

「約束通りの時間だね。ありがとう。大変なのにごめんね。」

「なぁに!100人分一気に売れたと思えばウハウハだよ!」



うぇっへへ、とちょっと不気味な笑い方をした屋台のにいちゃんと仲良く話しながら、手持ち無沙汰だったから途中からパンにレタスと焼き上がった腸詰めを挟むのを手伝いながら異空間に入れる作業を続けた。


最後の方になると、準備中の看板をたてていたのにチラホラ冒険者を始めとしたお客さんがやってきて、数が揃えば営業始めてもいーよー、と許可を出すと、なんだかえらく混み出した。流れでそのままパンに包む作業を手伝っていると、買ったお客さんが最初の方は俺を見て2度見して、途中からは最初から俺をガン見しているお客さんが増えた。主に女性が。そういうお客さんには屋台のにいちゃんが会計までしてくれ、と小声で言ってくるので、仕方なく笑顔の安売りをして商品を手渡し、小銅貨8枚です、お釣りです、と手を包み込んで渡すまでがセットになった。


ーー結果、昼になるまでに完売した。


ちゃんと俺の分は避けてくれていたみたいで、残りの受け取り分を焼いて貰い、異空間に入れて、屋台のにいちゃんと別れる。



「綺麗なにいちゃんのおかげで売れ行き過去最高よかったわ!バイトに雇いたいくらいだぜ!」

「俺は疲れた。もう絶対やらない。あとはこまめにお客さんとしてくるわ。」

「えー。」

「えー言っても可愛くないよ。じゃあね、にいちゃん、大変なのは手伝ったからチャラだね。」

「お釣り払うくらいだな!払わねーけど!」

「はいはい。またねー。」



すっかり日差しが高くなったな、と思ってると教会の方から昼の鐘が鳴った。

この後商人ギルドに行くし、ここで昼ごはん済ませるか。白いご飯も恋しくなって来ていたので、こちらも気になっていた魚を焼いている屋台で魚を買ってくる。

ヤマメみたいだなと思ってるとやっぱりヤマメという名前だった。この世界の食材の名前、時々変なのは魔物だけなようだ。

ヤマメなら絶対美味いでしょ、とその場にあった出来上がっていたものを全て買い取る。24本だった。1本小銅貨5枚で合計小銀貨1枚と大銅貨2枚。日本円にすると500円×24で1万2千円だ。1本だけ残し後は異空間へ。


噴水の近くのベンチに座り、串にささったヤマメを右手に、異空間から取り出したおにぎりを左手にあむあむ。お、今回はタラコだ。うまうま。ヤマメもパリッと香ばしくいい塩梅の塩味だ。うまうま。

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