26.木材屋さん見っけ

「ーーーはっ」



お昼に協会の方から鳴る鐘の音で我に返り、(協会は先日の街中探索で発見している。噴水広場から宿屋街に続く道と貴族街に続く道の間の道を行くと、八百屋やらヴィンさんとこの商会やら民家やら色んな建物が立ち並び、その道を抜けるとまた枝分かれして協会への道と民家、スラム街らしきちょっと淀んだ空気の場所もあった。協会の方の道を抜けると左に噴水広場、前方にもいくつか店や民家が、右は貴族街ーーの前に大きな橋があり、橋のたもとには衛兵らしき人が立っていた。許可なしだと通れないんだろうか。今度試そうと思っている。だって図書館貴族街なのだもの。)ひたすらに水の流れを眺めていたのを後悔する。



「やべ、お昼だ。」



お昼は宿では取らない。食堂としてもやってるらしいので、取る事も可能だが、ここは割と繁盛してるのだ。飯うまだからな。朝と夜は宿なので、昼には違うとこで食べたいのもあるけど。


今日はお風呂の材料を調達しに職人ギルドの奥、あそこはもう職人街と言ってもいいと思う、工房だらけの場所に行こうと思う。隅々まで見てないけど、きっと木工工房とか木材屋なんてあるんじゃないかな。

冬は薪ストーブのようだし。


お昼は噴水広場の屋台で済まそう。煮込みの屋台、気になってたんだよね。美味しかったら鍋ごと欲しい。

鍋はいくつか異空間に入ってるし。これから仲間の分もある事だし、1食分小分けで貰おう。10人前くらいで。一人2杯計算。充分でしょ。



ーーー結果、小分けで3食分買った。これが1回に買う限界みたい。

しかし美味しかった。モツ鍋だった。

満足満足、とにこやかにギルド方面に向かう。



ーーーーん、誰か2人程、噴水広場辺りから着いてきているけど、実害がなければほっとく。



冒険者ギルド、薬師ギルド、商人ギルド、職人ギルドを過ぎて、民家をあちこち横目に、工房群が見えて来た。この前は素通りしたけど、鍛冶屋と服飾工房の間にもまた細い路地がある。こっちにも見なかった工房があるかもしれない。ちょっと迷路みたいでワクワクする。


鍛冶屋も服飾工房も細長く奥に続く造りになっていて、お互いに塀が高くなっている。

火を使う鍛冶屋と布を扱う服飾工房なら相性悪いしね。なんでお隣さんなんだろ。

これだけ長いと住居とか下宿も兼ねてるんだろうか。


鍛冶屋は熱気とカンカン何かを叩いてる音が漏れている。服飾工房はミシンの音か、かすかにカタカタ音がする。電気系統は見ないので、足踏みのミシンかな、と想像する。


2つの塀が終わると、今度は民家が所狭しと建っている区画にたどり着いた。

ーーーーあぁ、場所がないのかな。

そういえば八百屋とか商会がある通りも、道路に面した民家の他、その裏側すぐにも民家があった気がする。

街の規模が大きくなるにつれ、家が建つ場所がなくなっているのかもしれない。

鍛冶屋と服飾工房なんて相性最悪なのに隣り合わせなのは、選ぶ土地がなかったからかも。

とりあえず目についた家と家の間にある細い道を進む。



ーーーーまだ着いてきてるなぁ。

ーーーー撒いてみようかな。



角を曲がり、人がいない事を確認して、次の角まで転移。ついでに透明化の魔法をかけて、飛翔する。そのまま様子を見てると、着いてきていた2人組はキョロキョロして、走ってここの角の先を確認、当然見えてないので、反対方向へ走っていった。この前の大っきい人と同じ紋章つきの胸当てをしていたな。あの人達もマーキングしとこうか。


これで鉢合わせはしない。他にも誰か探してたりしたらどうもならんけど。


飛翔魔法を使ったので、ついでに木工工房か木材屋をここから探せないか見渡す。木材が山積みになっている、それらしい所を発見。なんだか木材が埋め尽くさんばかりだけどこれが普通なのだろうか。繁盛してまんな。何人か木材の側で話してるけど、入り口からは見えない裏庭にあたる場所だ。入り口近くまで飛んで、辺りに人がいない事を確認して降り立ち、透明化を解除する。



「ごめんくださーい」



入り口に縦看板で木材屋と書いていた。隣に木工工房も並んでいたけど、同じ経営者かなぁ。入り口から入ると、一応カウンターはあるけど、誰もいない。ドアベルがない代わりに、自ら鳴らすベルがカウンターに置かれていた。これで呼べと。



《ガランガランガランガランガランガランガランガランガランガランガランッ》



誰か来るまで鳴らすつもりでガランガランしてると、ドシドシと足音が聞こえてきた。




「ーーうるせぇ!聞こえてるよ!」

「ーーこんにちは。ーーー呼べってベルじゃないの?」



そんな理不尽な。と思って挨拶も早々に疑問を投げ掛ければ、親方風の筋肉ムキムキ白Tシャツのおじさんが「そうだがそんな鳴らす奴があるかっ」とやっぱりちょっと怒鳴られた。



「ーーで、坊....主だよな?よく見りゃえっれーお綺麗な顔してるな。服もちょっと変わってるし、貴族のお忍びか?」

「うんにゃ一般人だよ。男、男。」



今日はなんて事ないパーカーにジーパン、スニーカーなんだが、これはここでは少し変わった部類らしい。おじさんも作業服着てるけど、パーカーの事を言っているのか。スニーカーは当然該当すると思うけど、足元まではみんな注目しない。みんな基本的に革靴だよね。



「お風呂の材料買いにきたんだけど、あるかなー?」

「........坊主、貴族じゃないにしろ、金持ちか?普通風呂は一般家庭にゃ付けないだろ。」

「お金は持ってるよ?冒険者と、錬金術師。」



どやぁ、とパーカーの首元につけてた銀バッチを指さす。



「錬金術師様かい。その年で銀ランクなら、才能あるな。ーーーー錬金術師ってのはちょうどいい。坊主、ヒノキって木材買わねえか?安くするぞ。」

「おお!檜!それないかなって来たんだよ!買う買う!あるの!?」

「おお!それはよかった!ーーや、それがよ、問題があるんだ。」

「何が?」



見た方が早い、と奥に連れられて行き、そのまま裏庭に続く裏口まで着いていく。


裏口を出た先は、先程上から見た光景そのままだった。木がこれでもかとあちこち山積みになっていて、やはり何人かが話し合っている。

こちらに気付いた人達が、ワラワラと近寄ってくる。



「親方、お客さんですか?でも今あるのは全部ーー」

「坊主、錬金術師なら魔法が使えるだろ。この木材、乾かせるか?」

「お、親方!?」



グイグイっと親方が俺の肩を掴んで、木材の前に連れて行ってそんな事を言う。



「あ、木材が湿ってるんだね。なんで?」

「冒険者なら坊主、知ってるだろ?3週間くらい前か、この西大陸全体で土砂降り続いて、土砂崩れだなんだってあちこち大変だったろ。入荷するものもこの有様よ。おまけに風呂設置やら改装はいつも順番待ちでな。元々あった乾いた木材も出ちまった。うちは木工工房もやっててよ、家具作るにも乾燥した木材もなくて参ってんだ。


入荷は毎日あるが、いつも頼んでる火魔法使いも風魔法使いもその土砂降り騒ぎの後始末で出払ってて来やしねえ。貯まる一方でこの通り山積みよ。

冒険者ギルドにも依頼出してみるかって話だったけど、魔法使いってのはこの手の雑用はあんまり受けねえからな。魔力の多い魔法使いはどこかのお抱えか、冒険者でも大事な戦力だって高ランク依頼に出ずっぱりだ。

錬金術師様はよ、ほれ、ポーションとかなんだと魔力使うからダメだしよ。


坊主、風呂の木材探して自分から来たって事は、坊主が設置するんだろ?魔力も多いとみた。どうだ?やれるだけでいい。ヒノキの材木、必要な分安くーーー、いや、乾かした本数によってはタダでやる!」



おお、大盤振る舞い。

困ってるみたいだし、宿屋での実験用だけじゃなく、いつか使う在庫の為にも大量に貰う算段でやってやりますか。



「親方、俺、すっっっっげーーー魔力多いの。」

「お?おぉ、頼もしいな!」

「多分、びっくりするけど、これからやる事、他言無用だよ。他の皆さんも。約束できる?」



見回すと、話についていけてない顔をしながらも、コクコク頷く周りの人たち。親方と言ってたし、木工工房とかのお弟子さんかなぁ?



「じゃ、男女用露天風呂6個分はちょーだいね。」

「おう!ーーーあぁ!?そりゃいくらなんでも多くねえか!?それじゃ全部乾かしてくれねえと割に合わねえぞ!?」

「勿論。ぜーんぶ乾かしてしんぜよう。」



胸をこれでもかと逸らして腕を組んでやる。

親方だけじゃなく周りの人達も理解が追いついたのか「ホントかよ!」と突っ込み貰うが、ふふん、と笑って木材の山に身体の向きを変える。



水中乾燥って1度水中に入れる乾燥方法があるっていつかの転移先の木こりさんが言っていた。表面が綺麗に仕上がるとかなんとか。虫とかいたらやだな、そういえば洗浄魔法って乾燥までセットだよな、と思いつつ、急激な乾燥は割れたりなんだり問題あるけど、何も火と風魔法使わずとも洗浄魔法なら問題ないのでは?と思いついた。光と水で除菌しつつ水魔法でほどよく水抜いてる状態なんだろう。俺の洗浄魔法ペッカペカサラサラ高性能だし。


よし、と思い、裏庭全体に積み上がっている500本は超えているだろう木材全体に、割れないよう、程よく水分残す事を念頭にいれて洗浄魔法をかける。


両手を広げて範囲指定すると、ふっと日が陰る。大量の水が現れ、それぞれの山積みされた木に水流が発生し、キラキラと光が散らばる。水がひくと、水があったのが嘘のように少し湿っていた地面まで乾いている。


1番近くの山積みの木材に近寄り、そこから1本木材を抜いて放り投げ、異空間から刀を出してスパンと縦半分に切る。

ドン、と地面に綺麗に切れた木材が落ちる。

ーーうん、表面も滑らかだし、乾燥もちゃんとしてる。



「ーーー親方ー、綺麗に乾燥出来てるでしょー?」



確認してもらう為に断面を見せるように木材を持って親方のいる方を向くと、

ぽっかーーーーん、とした顔をしている親方とおそらくお弟子さん達。




あれ、なんかデジャヴ?

ーーーいや、違う。これあれだ。昨日ブラウンさん達がしてた顔だ。

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