19.街中探索

商人ギルドを出て、時計を確認。まだ10時過ぎだ。

商人ギルドより更に奥に行ってみる。職人ギルドがあって、少し歩いて、鍛冶屋とか服飾の工房が見えてきた。お、ガラス工房。結構大きい。ここで頼んだ瓶作ってくれるのかな。ガラス工房までくると、道が右にカーブになっており、感覚的には噴水広場方面に続いている。


こんな道案内図では書かれてなかったような......いや、線だけかかれてたかも。噴水広場でも大きい道に気を取られて細い道見逃したかな。

さっきの工房とかも書かれてなかったし、お客さん用の簡略地図なのかもしれない。若しくは案内図自体年季入ってた気がするしけっこー古くて、店とか工房が後からできたのかも。


まぁ、探索する楽しみもあるよね、と気にしない事にした。


細い道に、最初に見えたのはコーヒーの香りがする喫茶店。お昼にはまだ早いけど、コーヒーの香り嗅いだからコーヒー飲みたくなった。

ふらりと入る。



《ーーチリリン》



凄く控えめなドアベルを聞き、店内に入るとより一層コーヒーの香りが強くなる。



「いらっしゃいませ。」



渋いおじ様が出迎えてくれた。マスターだろう、コーヒーを入れてる最中だった。

カウンターがあって、レジとの間に棚があり、そこにコーヒー豆と紅茶の茶葉が何種類か置かれている。

これだけ買いに来る人もいるのかな。奥まってる所にあるお店だし、隠れた名店っぽい。



「お好きな席へどうぞ。」



そう言われて、見回す。

店内には、2組、席についている。

日差しが暖かそうな、窓際の席に座る事にした。

メニューが置かれていたのでそれを見て、コーヒーを頼む。

今日はもう用事もないし、探索も急ぐものでもない。異空間から昨日買った本を取り出し、ゆっくりと読む。速読も瞬間記憶もあるけど、本はゆっくり読むのが好きだ。紙のめくる感触も好きだし、インクの匂いが混じったのもいい。

時々コーヒーを飲み、なくなるとおかわりを頼み、本を1冊読み終えた。


面白かった、と満足して微笑み、残っていたコーヒーを飲むーーーー何人かの人と目があった。ーーーなんだいつの間にかお客さん増えたんだな。


1人で座ってるカウンターの席の紳士も、近くに座ってる女の子2人組も、真ん中あたりに座ってる男女のカップルも、首を傾げると、パッとそれぞれ目を逸らした。


話していないとおかしいと思ってか、そこかしこで妙に大きい声で話し出す。

その中に気になる話があった。



「そういえば例の天使様、ジワール男爵が探してるらしいぞ。」

「えぇそうなの?なんで?」

「天使様が使ったポーションが何なのか、とか出所を探したいのもあるけど、天使様本人も顔がいいってみんなが話すから、見てみたいそうだ。」

「えぇジワール男爵って黒い噂あるでしょ、人身売買がー、とか。大丈夫かな天使様。」



ジワール男爵って昨日聞いた馬車で人轢いたろくでなし貴族だろ。

天使様呼びが物凄く気になるが、言ってるのは俺の事だろう。

人攫いは地球の時も他の世界でも経験した俺である。今はチートなので、そんなに危機感ないけど、煩い奴がいるので一応気をつけよう。


本も1冊読み終わったし、美味しいコーヒーだったし満足したので、会計をしに行く。

コーヒー豆と紅茶の茶葉をいくつか買って、喫茶店を出た。俺の異空間にはミルもポットもあるから、宿屋の厨房でも借りて飲み物ストックしとくのも悪くない。サンディさんにも紅茶用意しとくって言っちゃったしね。


喫茶店を出て噴水広場方面に向かうと、今度はファンシーな雑貨屋さんを発見。

噴水広場も見えてきてるし、この辺りの若い子に人気がありそう。


レースやヒラヒラ、可愛らしいものに溢れていて、ちょっと1人では入るのは勇気がいる。探索の気分なので中は気になるが、ここはあれだな、ニコちゃんを今度誘おう。


やめやめ、と頭を振って、先を歩く。

ーー噴水広場に戻ってきた。

この前の串焼き屋さんと、なんだろう、何かの煮込みの屋台、パンにウィンナーらしきものを挟んだ屋台、ジュースの屋台、魚を焼いている屋台、パンケーキの屋台なんてのもある。


ジュースの屋台は『名物!ぶどうジュース』なんて書いていて気になるが、さっきまでコーヒー3杯も飲んでしまったのでやめておく。パンにウィンナーらしきものを挟んだ屋台に近寄っていく。昼時だからかどこも混んでいて、並ぶ。

時々目が合う人に二度見されるけど、それは慣れているのでスルー。


観察していると、ウィンナーらしきものは『くまベアー』と言う魔物の肉を腸詰めにしたやはりウィンナー。ーーどっちもくまだよね。くまくまーでもよくない?と思った。

屋台で出ると言う事は、この辺りでよく出てくる魔物なんだろうなぁ。



「うぉっ超美人!ーーて男か?ーーーにいちゃん、エルフか?ーーー耳尖っても長くもねぇな。」

「お兄さん、正直すぎるのもどうかと思うよ。」

「何だよ気に障ったか?悪いな!つい口が先に動いちまうんだよ!何個いる?」

「とりあえず1個。美味しかったらストックの為に100個くらい頼むかも。」

「なんだ収納スキル持ちの商人かぁ?100個は今日は勘弁してくれなぁ!他に並んでるお客さんもいるからよ!完売しちまうわ!」

「冒険者だよ。出先で食べたい時にあると便利でしょ。」

「贅沢な冒険者もいたもんだなぁ!冒険者と言えば干し肉に固パン、時々狩った魔物肉の焚き火焼きがセオリーだろ!」

「贅沢な冒険者がいてもいーでしょ?美味しかったらの話だよ。美味しかったら、別に注文したいなぁ。明日でも明後日でもその後でもいーよ。」

「美味いに決まってらぁ!日にち改めてくれんならお安い御用よ!『くまベアー腸詰めのパン包み』1つな!くまベアーだから小銅貨8枚と高いぞ!」



どう見てもウィンナーのホットドッグをズイッと渡される。笑って、小銅貨8枚を渡す。

あむ、と食べると、レタスのシャキシャキ感と、くまベアーの肉の旨味がすごい。脂もジュワッと口の中に広がり、しかしレタスとパンがうまい具合にそれを中和させ、くどくない。

小銀貨8枚を財布から出し、屋台のにいちゃんに渡す。



「超美味い。100個ね。いつ出来る?」

「だろだろ?そうだな、3日後だな!パンはな、そっちの道の『至福のパン屋』で仕入れてんだ!そこの親父に追加で注文しないといけないからな!」

「うんわかった。3日後取りにくるね。朝から来ていい?出来立て入れときたいから。」

「おういつもは朝11時からなんだけどよ、8時から焼いてやるよ!」

「わーい。楽しみにしてるね。」



笑顔で別れを告げ、お兄さんが指差した道に向かう。今度は宿屋街と貴族街の間の道だ。

パン屋さん情報を得たので、ルンルンだ。



ーーと、その道に入る前にふっと前に人影が。足を止めて、仰ぎ見る。でかい人だな。



「昨日ここに足を運んだか?」



いきなり何、と思って怪訝な顔を向ける。

でかい人は、屈強そうな体をして、顔にもいくつか傷がある。護衛とかそんな感じの職種だろうか。胸当ては何処かの紋章付きだ。



「ここ通んないとギルド行ったりできないからね。みんな通ってるんじゃない?」



とりあえず無難に返答してみるも、目の前の男は片眉を上げて睨んでくる。



「単刀直入に言う。お前が天使様とか言われてる奴か?」

「ーーー誰だよそんな事言うやつ。俺は天使なんかじゃない。」



あ、俺だろうね、とは思ったが認めたくはないのでそう返す。



「昨日ここで馬車に轢かれた男にポーションを使ったか?」

「い・い・え。」

「本当か?」

「本当。本当。でもなんなの?その天使様見つけてどうすんの?」

「我が主人の屋敷に招きたいとーーーいや、違うなら関係ないな。足を止めさせて、悪かった。」



しれっと否定して、ついでに聞いてみたが、噂とあまり変わらない情報しか貰えなかった。ジワールとかいうのかもわかんないけど。


男に今後接触しないよう、マーキングをつけておく。街中では索敵魔法発動するもんじゃないけど、気をつけようと思ったばっかりだしね。


昨日の今日で行動が早いのか、昨日の今日だから動いているのか。ほとぼり冷めるまで大人しくしとくとこだけど、行動を制限されるのは気に食わん。知らぬ存ぜぬを通そうと思います。


その後『至福のパン屋』さんに行き、調理パンがあったりと興奮して、全種類2個ずつ買った。買い占めは怒られそうだから自重した。学習したよ、俺。


だがしかし八百屋、商会では色々買い漁りした。ちゃんと少しは残したよ。スキンヘッドの門番・ヴィンさんの実家らしい商会は、なかなかデカくて、ヤマト国の米もあって、醤油、味噌と共に買った買った。

なんでも調理法までは伝わってなくて、珍しいもの好きの情報通のお貴族様くらいしか買わんのだそうだ。


異世界あるある日本食革命がおこるかもしれん。

振る舞うのは面倒いから勘弁だけど。

あれ、俺のやる気の問題かしら。

ーーーいや、大丈夫だここは携帯小説らしいから、転生もしくは転移の日本人主人公がいる筈。名も知らぬ主人公、君が頑張ってくれ。

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