第15話 混合毒

戦略家 ジークベルト・フォン・アインホルンの物語


 ジークベルトは、姉メーア・フォン・アインホルンの身に迫る危機について、ラスカリス・アリアトラシュに打ち明けるべきであると確信した。

「ラスカリス。お話ししたいことがあるのですが」

「メーア殿の件だろう。こちらから聞かせてもらおうと思っていた所だよ」

「お聞き及びでしたか」

「詳細は把握していない。メーア殿に不埒な行為に及ぼうとしている輩がいるらしいね」

 ジークベルトは、ほんの一週間ほど前、自分が経験した出来事をラスカリスに話して聞かせた。ラスカリスは眉根に皺を寄せて、小さく唸った。

「実行犯は、クライン子爵家の次男、アルトゥール・クライン。リヒター男爵家の長男フェリクス・リヒター。シュワルツ男爵家の次男、リュディガー・シュワルツか… いずれも小物も良い所だな。公国宰相兼財務卿を任されるアインホルン公爵家に比肩すべくもない小身ばかりだが…」

「この三人を束ねるのが、ゼークト伯爵家の次男、エドガー・ヴォルフ・フォン・ゼークト。暴力行為や飲酒、不純異性交遊で悪名高いアカデミーの鼻摘み者らしいのですが…」

「それでも、メーア殿が自分に靡かないからと言って、子分どもと計らってメーア殿に乱暴し、将来を棒に振る程の愚か者とも思えないのだが…」

「同感です。一連の計画には裏があると考えるべきかと」

「真の狙いは、君たちの父上、ユルゲン・フォン・アインホルン侯爵か」

「僕もそう考えます」

「だとすれば、十代の悪ガキの粗雑な計画という訳ではないな。ジーク。君が連れ込まれた部屋には、三人の男がいたと言ったね。君が話をしたのは、四十からみの中年男性だけであると… その男は、魔道具で声を変えていたか」

「いいえ。あの部屋に入った途端、身体中の産毛が逆立つのを感じました。魔道具を使えないようにするため、部屋全体に強力な静電界が張り巡らされていた証拠です」

「その声に聞き覚えはないんだね」

「初めて耳にする声でした。他の二人は、息遣いからして僕たちとさほど変わらぬ若者であるように思われました。この二人が一言も発しなかったのは…」

「もしかすると、君がその声の持ち主を知っているかもしれないからだね。それで、ジーク。君は、メーア殿に狼藉を働く計画に賛同する旨を彼らに伝えた。アインホルン家からメーア殿を放逐し、アインホルン家を我が物とするためにね」

 ジークベルトは。皮肉な笑みを浮かべた。

「もちろん、演技ですよ、ラスカリス」

「分かっているさ。それで君は、一連の事件の顛末を父上、アインホルン侯爵に報告したという訳だな。それは、メーア殿に狼藉を働き、ひいてはアインホルン侯爵家、そしてヴァルデス公国にダメージを与えようと図る黒幕を陽の光の下に引き摺り出すためにね」

 ジークベルトは、大きく頷いた。

「いや、よく話してくれた。君も難しい立ち位置だな、ジーク。くれぐれも身辺には気をつけて行動してくれ。私もできる限り、協力させてもらおう」

「ありがとうございます、ラスカリス」

「メーア殿はアカデミー中等部で、私の二年先輩だった。サークルが同じだったが、何くれと面倒を見ていただいた。メーア殿に不埒な行為をなそうとする輩は、私にとっても敵だ」

「千の味方を得た思いです、ラスカリス・アリアトラシュ」

 ラスカリスは、デスクに置かれた時計に目をやった。

「もう、こんな時間か… ナイトキャップという訳ではないが、就寝前のワインはどうだ、ジーク。そろそろ、メイドがワインとグラスを運んでくる時刻だ」

「お相伴に預かります」

中天には月の女神の豊満な裸身が輝き、ヴァルデス公国の第三公子、ラスカリス・アリアトラシュの部屋に青く濡れた光を届けていた。

 ジークベルトは暫し、月光を浴びて沈黙した。

「失礼いたします」

 ノックの音がして、部屋の外から若々しい少女の声が扉越しに届いてきた。

「ワインをお持ちしました」

「入れ」

 ラスカリスの返事を聞いて、ゆっくりと扉が開き、カートを押しながら、一人の美しい少女が彼の部屋に入って来た。カートの上には、ワインボトル。ワイングラス、デキャンター、ワインクーラーが載せられていた。少女は、思いもかけず、主君であるラスカリス・アリアトラシュの部屋にもう一人、別の少年がいることを認めて困惑した。

「あいすみません。お客様がいらっしゃるとは存じませんで…」

「いつもの娘はどうしたのだ。アメリアは具合でも悪いのか」

 少女は、弱々しく笑った。

「アメリアは少し、熱があるとかで… 殿下にお移しでもしたら一大事と、私が交代いたしました」

「そうか… 君の名前は」

「ミロスラーヴァです、殿下」

「ミロスラーヴァか。可愛い名前だね。あ、ジークのためにグラスをもう一つ、頼む」

「承知しました」

 ミロスラーヴァと名乗った少女は、カートの上のワインボトルやワイングラス、デキャンターや氷を入れたワインクーラーなどをテーブルに移動させた。

 ジークベルトは、メイドの少女の横顔を見詰めた。同年代の美しい少年の視線を浴びて、少女は恥ずかしそうに頬を染めた。

「悪いが、検知魔法を使わせてもらうよ」

「はい、殿下」

 ラスカリスは、テーブルの上に右手を掲げた、

検知ディテクション

 淡いレモン色の光が、テーブルを包む。毒を検出するための光系魔法である。ラスカリス・アリアトラシュは、「光」属性の魔術師マージであり、魔法による傷の治療、体力の回復、毒の検知、解毒などを得意としている。

 そして、テーブルの上に並べられたワインとワイングッズは、ラスカリスの「検知魔法」に何の反応も示さなかった。

 毒物が存在しないという証だ。

ミロスラーヴァが。ラスカリスに向かって囁くように言った。

「よろしゅうございますか」

「ああ、問題ない」

 主人の言葉を待って、ミロスラーヴァは、ワインオープナーを使ってワインボトルの栓を開け、グラスを二つ並べて、一つずつゆっくりとワインを注いだ。二つのグラスをそれぞれ、ラスカリスとジークベルトの前に運んだ。残ったワインは、ボトルごと、キューブアイスを満たしたワインクーラーに戻す。一連の作業を終えて、ミロスラーヴァは一歩、後ろに引き下がり、新たな主人の命令を待つべく、両手を前に添えて待機の姿勢を取った。

 ラスカリスが、自分の前に置かれたワイングラスに手を伸ばす。

ジークベルトが、はっきりと強い口調で言った。

「ミロスラーヴァ。君は知っているか」

 ワイングラに伸びたラスカリスの手が、ピタッと止まった。

「悠久の歴史を持つ帝政エフゲニアには、様々な毒物が存在する。その中には、公国にその成分や解毒法が知られているもの、そうでないものがある。エフゲニアの毒物で最も危険な毒物の一つに『混合毒』と呼ばれるものがあるそうだ。これは単体では毒物とはならず、検知魔法にも、いかなる試薬にも反応しない。ところが、毒性のないAという物質と、同じく毒性のないBという物質を混ぜ合わせると一転、猛毒に化けてしまう。これを『混合毒』と呼ぶそうだが…」

 ミロスラーヴァは怪訝な表情で言った。

「あ、あの、それが何か…」

「『混合毒』は、別名、二成分毒素とも呼ばれる、まず、Aという毒素が標的の細胞に侵入する。しかし、これだけでは毒素は活性化されない。人体には、何の悪影響もない。しかし、後から侵入したBという毒素が、細胞内で先に侵入したAという毒素と結合して猛毒化するという仕掛けだ。AとB、どちらの毒素も単体では、検知魔法にも試薬にも引っかからない。AとB、両方の成分が標的の体内に吸収されることによって、初めてその効果を現すのだ。そして、標的が死亡した後で調べてみても、被害者の周辺から毒物は一切、検出されない、そういうよく出来た代物をエフゲニア帝国では、秘密裏の暗殺に用いているらしい」

 少女の顔に、明らかな恐怖の色が浮かんだ。どうやら、自分に公族に対する暗殺未遂の疑惑が掛けられているらしい事を察知したからだった。

「あ、あの… 私、何の事だか…」

「もし、ワインの中に毒素Aが仕込まれ、ワイングラスに毒素Bが仕込まれていたら、二成分毒素は、それを飲んだ人間の体内で結合し、その者に死をもたらす… そして死者の周辺からは、毒物は一切、検知されない、そういうことになるね」

「ジーク」

 ジークベルトの言葉を聞いて、ミロスゥラーヴァは怯えた声で言った。

「わ、私、毒殺なんて、そんな恐ろしい事…」

 それでも、ここで身の潔白を証明しなければまずいと思ったのだろう。

「よ、宜しければ、私自身で毒見をいたします」

 これを聞いて、ラスカリスが被りを振った。

「それには及ばない。もう一度、検知デティクションの魔法を使えば済むことだ」

 ラスカリスは、もう一度、ワイングラスの上に手を伸ばして、呪文を詠唱した。

検知デティクション

 再び、淡いレモン色の光が、ワイングラスを包み込む。そして、その反応は…

反応はなかった。ワイングラスの中には、毒物は存在しないという事だった。

 ジークは深いため息をついた。

「すまない、ミロスラーヴァ。 僕の早とちりだったようだ。君の名誉を侮辱してしまった。どうか、許してほしい」

 ジークは、潔くメイドの少女に頭を下げた。

「い、いいえ、良いんです。そうだ。何でしたら、私自身がお毒見をいたします。殿下の魔法とダブルチェックという事で… 構いませんか」

 ラスカリスはジークと顔を見合わせた。そして、小さく頷いた。

「頼むよ、ミロスラーヴァ」

 ミロスラーヴァは、ラスカリスのグラスを手に取って、そっと桜色の唇をグラスに触れた。ほんの少しだけ、ワインを口に含んで、コクっとそれを飲み干す、 

 ミロスラーヴァは、にっこりと笑って言った。

「この通りです、殿下」

 ラスカリスは、フッと嘆息を吐いた。

「そのようだね… いや、これで確認が取れた…」

 ミロスラーヴァは、手に取ったワイングラスをラスカリスの手元へ戻そうとしたが、今度は、ラスカリス自身がそれを制止した。

「ミロスラーヴァ。君、もう一度、そのワインを口に含むことができるかい」

「えっ。どういうことでしょうか、殿下」

「こう言う事さ」

 ラスカリスは、またワイングラスの上に手をかざした。

検知デティクション

 淡い檸檬色の光がワイングラスを包み、今度は乾いた血液のような、ドス黒い赤色に変化した。検知デティクションの魔法が、毒物を検出したのだ。

 ミロスラーヴァは、息を呑んだ。

「間違いなく、これはエフゲニア帝国産の混合毒だ。混合毒のうち、毒素Aはワインの中に、そして毒素Bはワイングラスではなく…」

 ラスカリスは、メイドの少女の唇を指差した。

「ミロスラーヴァ。君の口紅の中に仕込まれていたようだね」

 ミロスラーヴァは項垂れた。

「…私の正体を暴くために、随分と手の込んだ事をするのね…」

 ラスカリスは、静かに少女の問いに答えた。

「君がメイドに成り済ました暗殺者であることは、最初から分かっていた。ただ、確認したかったのだ。君が自分の意思で暗殺者となったのか、それとも第三者によって、知らぬ間に暗殺者に仕立て上げられてしまっただけなのかを、ね」

「…優しいんですね、ラスカリス・アリアトラシュ」

「言っておくが、私もジークも我が身を守るために十分、強力な魔法を行使できる。それに、私たちはケイパーリット式旋舞拳闘の名手だ。毒殺が失敗した以上、君には私たちと戦う手段がない。ミロスラーヴァ、君一人でこんな大胆な暗殺計画を実行できるはずはない。正直に背後で手引きをしたものたちの事を白状するならば、その身に一切の危害を加えない事を名誉にかけて約束しよう」

「教えていただけますか。なぜ、私の正体を見抜けたのですか」

 ミロスラーヴァの質問に、ジークベルトが答えた。

「随分と練習を積んだようだが、君の言葉にはわずかだが、ザッタギア訛りがある。エフゲニア人を装ってはいるが、君は沙馮シャフーだな」

「…そうです。私は誇り高い草原の民、沙馮シャフー部族ウルス、ザッタギアの人間です」

「君は、髪を金髪に染めているが、いささか、髪の色が明るすぎる。エフゲニア人の髪色は、もっと色味の薄いホワイトブロンドなのだ。それに…」

「まだ、あるんですか」

「君が騙った名前、ミロスラーヴァは確かにエフゲニアの名前だが、エフゲニア貴族の、それもかなり高齢の貴婦人たちに多い名前だ。エフゲニアの平民の娘たちは、ナターリャ、タチアナ、カーチャといったシンプルな名前であるのが普通なのだ。エフゲニアは、厳密な階級社会であって、平民が自分の娘に貴族風の名前を付けたら、それだけで僭越であるとして、貴族たちに睨まれることになる。エフゲニアの平民たちが、わざわざ、貴族たちの怒りを買うような真似をするはずがないのだよ」

 ミロスラーヴァは、小さく舌打ちした。

「ラスカリス殿下。あなたは私が暗殺者である事を最初から分かっていたとおっしゃいましたが、それは本当ですか」

「本当だよ。いつも私の部屋にワインを運んでくれるメイドの名前は、サラと言うんだ。アメリアと言う名前のメイドは、アイヴォリー・キャッスルにはいないんだよ」

「…頭が良いのね。私なんかじゃ、勝てるはずないわ」

「衛兵を呼んでも良いかね」

「どうぞ、お好きなように… どのみち、公国の官憲の手は私には届きませんから」

 そう言って、ミロスラーヴァと名乗った沙馮シャフーの少女は、手にしたワイングラスを一気に煽って、混合毒の入ったワインを飲み干した。

「‼︎」

 沙馮シャフーの少女の口元から、まるで鮮血のようにワインが一雫、流れ落ちた。

「ラスカリス。この娘に解毒魔法を!」

 ジークベルトの言葉に促されて、ラスカリスが少女の頭に手を伸ばす、ミロスラーヴァと名乗った少女は、嫣然と笑った。

「無駄よ。毒の成分が分からなければ、解毒魔法も効かない。ラスカリス・アリアトラシュ、あなたを殺せなかったのは残念だけど、どんな情報も私から聞き出すことは不可能よ」

 ジークベルトもラスカリスも、まだ十代後半に見える異民族の少女の覚悟に圧倒された。

「なぜ、命を賭けてまで、ラスカリス・アリアトラシュ殿下の御命を狙うのだ」

 ジークベルトの問いかけに、沙馮シャフーの少女は、燃え盛るような、激しい視線で応えた。

「シャンプールのお返しよ」

「君は、シャンプ—ル砦の戦いの生き残りか。いや、十年前、君はほんの幼女だ。シャンプールで命を落としたのは、君の身内か」

 ラスカリスの問いに、沙馮シャフーの少女は、大いなる憎しみを込めて答えた。

「私の父よ。勇敢なザッタギアの騎兵で、恐れを知らぬ戦士… そして、私を心から慈しみ、愛情を注いでくれた大事な父…」

 シャンプール砦の戦いは、今から十年前に起こったヴァルデス公国が存亡の危機にさらされた戦いである。北のエフゲニア帝国と南の沙馮シャフー部族国家連合群が、ともにヴァルデス公国の自陣営への服属を求め、それぞれ、5万の大軍を繰り出して、公都ヴァイスベルゲンを包囲し、公国の降伏と帰順を要求した事件であった。

 アスベルとアスベル、双子の姉妹の父親である当時の外務卿、グイン・バウムガルトナー伯爵が、南北の二大勢力との調停の場所に、公国領であるシャンプール砦を設定した。

 エフゲニアと沙馮シャフーの代表団が、それぞれ、シャンプール砦へ赴いたが、何と、外務卿、グイン・バウムガルトナー伯爵は、調停の席で双方の出席者たちを皆殺しにして、そのまま、行方をくらませてしまった。エフゲニア帝国と沙馮シャフー部族国家連合群は、お互いに相手に謀られたと早合点し、そのまま、戦闘に突入。

 双方、甚大な被害を負ってしまい、ヴァルデス公国の占領に必要な兵士の数に不足が生じてしまった。そのため、エフゲニア、沙馮シャフーともに、軍勢を引かざるを得なくなり、ヴァルデス公国は、ギリギリで独立を守ることができた。

 グイン・バウムガルトナー伯爵の行動は、結果として祖国の独立を守る事に繋がったが、公会議を無視した独走であると上下両院の議員たちから指弾され、本人がそのまま逐電してしまった事から、言い訳もならず、バウムガルトナー伯爵家は、騎士爵家へ降格されてしまった。その後、グイン・バウムガルトナー伯爵の所在は知れず、何処かで野垂れ死にしているのではないかと噂されている。

 沙馮シャフーの少女の口元から、ピンク色の泡が漏れ出してきた。すでに顔色は紫色に変わり、死相が現れ始めている。それでも、彼女は激しい憎悪を燃え立たせた双眸で、二人の貴顕の少年を睨み付けた。

「今、ヴァルデス公国に差し掛かっている巨大な影は… あなた方が想像しているより、ずっと深く、ずっと静かに、この国に浸透している… 公国はもう、終わりよ… あなた方では、どうする事も出来やしない… さっさと逃げ出す算段でもする事ね…」

 ここまで言って、沙馮シャフーの少女は、小さく咳き込んで、絨毯の上に泡の混じった血を吐いた。ジークベルトもラスカリスも、壮絶な苦痛の中で憎しみと怒りの炎を燃やし続ける、沙馮シャフーの少女の強靭な精神に畏敬さえ覚えていた。

「誇り高き沙馮シャフーの少女よ。其方の本当の名前を聞かせてくれないか」

「えっ」

「このラスカリス・アリアトラシュ、半分とは言え、君と同じく、誇り高い砂漠の民族の血を引いている。私の母は、ハザーラ族の女、シータ・アリアトラシュ。我が母の父にして、私の祖父は、ハザーラ族の可汗カガン、イーマーム・アリアトラシュだ。勇敢な沙馮シャフーの少女よ。汝の尊名を伺いたい」

「……」

 ミロスラーヴァと名乗った沙馮シャフーの少女は、そう言って自分を見詰める少年の瞳の中に、確かに同族の血の誇りを感じ取ったようだった。

「私の名は… ザッタギア族、第一軽装騎兵ライズリ大隊長、バシール・アフメドの娘、ガザーラ…」

「バシール・アフメドの娘、ガザーラ。その名を胸に刻み、終生、忘れまい」

 ザッタギア族の少女、ガザーラは、初めて春風のような、優しい笑顔を見せた。

「…名誉である事」

 そのまま、ガザーラは絶命し、力無く椅子に崩れ落ちた。

ジークベルトとラスカリスは、公国に差し掛かる巨大な影とやらに思いを馳せた。だが今だけは、神の元へ召された、一人の誇り高い少女の魂の安寧を祈って、二人の少年はその場で瞑目した。

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