第8話 カルスダーゲン亜大陸の地理
カルスダーゲン亜大陸は大きく分けて、「北方」「中原」「南方」の三つの地方に分類できる。
北方は、冬ともなれば激しいブリザードに天地が閉ざされ、果てしない
エフゲニア帝国は、その凍てついた大地に成立した国家であり、厳寒に耐えられる強靭な白系民族が国家の中心となる帝国臣民を構成している。
彼ら純粋な白人種である帝国臣民の下に、帝国に征服された諸国家、諸民族が従属し、帝政エフゲニアは、広大な版図で多数の異民族を糾合する帝国を形成している。
一級国民である帝国臣民であるエフゲニア人と、それに従属する二級国民である傘下の異民族を併せれば、エフゲニア帝国の人口は、四百万人に達する。
エフゲニア帝国の最高権力者は、
現在の
レオニードは、ヴァルデス公国前大公、ミハイロフ・ヴァルデスの第一夫人であるダーリア・ゲルトベルグ・ヴァルデスの父親であり、ヴァルデス公国の大公位の継承権第一位を持つウラジーミル・ゲルドベルグ・ヴァルデスの祖父である。
エフゲニア帝国の首都は、アルセーニエフ。
帝都アルセーニエフにある帝国の王宮は、「金蠍宮」と言う。
エフゲニア帝国の国旗は、「金色の毒蠍」であり、これは帝国を支配するゲルトベルグ帝室の旌旗、つまり、古い部族の象徴に由来している。
帝都アルセーニエフには、帝国の正規軍である「アルセーニエフ第一軍団」が置かれている。
帝国の軍政は、主要都市にその都市名を冠した軍団が配置される軍区制が敷かれている。
その総兵力は、正規軍だけでおよそ、三十万人。
主力をなすのは、「
「
「
しかしながら、エフゲニア帝国最強の戦力は、「
「
エフゲニア帝国の戦い方は、「以夷制夷」、つまり、「夷を以て夷を制す」を基本としている。
帝国の領内で、Aという民族が反乱を起こすと、まず、Bと言う民族に反乱制圧を命じる。
そうやって、ふたつの民族を争わせ、お互いに傷付け合わせる。
ふたつの民族がお互いに深く憎悪し合い、怨恨を抱くように仕向け、弱体化させる。
その上で、自らは安全地帯でふたつの民族の上に君臨する。
そして、帝国に服従するなら、それで良し。
帝国の支配を拒絶するなら、恐るべき「
エフゲニア帝国は、その強大な武力で周辺民族を支配・統制する軍事国家であり、恐怖によって異民族の心を縛り付ける専制国家でもある。
女性の地位はとても低く、北の大地を旅した紀行家によれば、「エフゲニア帝国にあって、女性は家庭内で飼育されている、従順な家畜に過ぎない」とされている。
中原の国、ヴァルデス公国は、元々、エフゲニア帝国の大貴族であったヴァルデス選帝侯家が「南方鎮撫」の名目によって、帝国のゲルトベルグ帝室の命令により、転封される事によって建国された若い国である。
カルスダーゲン亜大陸を南北に分け隔てるアポリネール大河の水源地である湖に浮かぶ島、ヴァイスベルゲン島に位置している。
ヴァイスベルゲンという地名は、そのまま、公都の名前に採用されている。
中原は豊かな沃野が広がり、亜大陸最大の穀倉地帯となっている。
これは、一年の半分が雪と氷に閉ざされる北方のエフゲニア帝国にとっても、荒涼たる砂漠と草原が続く南方の
どうしても手に入れたい土地は、視点を変えれば、絶対に敵に渡す訳にはいかない土地であり、我が物と出来ないならば、敵に奪われる前に焼き尽くしてしまえという事になりがちである。
中原は、とても魅力的な土地であると同時に、外敵の侵略を招き寄せ、敵に奪われないように「清野戦術」によって、焦土化されやすい土地でもある。
ヴァルデス公国に君臨するのは、ヴァルデス大公家であり、その出自は帝政エフゲニアにあって、
ヴァルデス大公家の旌旗は、「フルール・ド・リス」、「百合の紋章」である。
ヴァルデス公国は、ヴァイスベルゲン島にある都市を中核として、エフゲニア帝国に対する備えとして、湖の北側の対岸に半弧形の要塞、「ノースフォート」が築かれている。
同様に、
「ノースフォート」と「サウスフォート」は、それぞれ、「ノース
ヴァルデス公国が南北の敵から攻撃を受けた時、まずは要塞で敵の進撃を防ぎ、防ぎきれない場合は
ヴァイスベルゲン島の地下には、廃棄されたダンジョンが広がっており、そこから発掘された四つの「魔神器」は、エフゲニア帝国への独立戦争で功績のあった貴族たちに与えられている。
彼らは、ヴァルデス選帝侯家がゲルトベルグ帝室から中原への転封を命じられてた時、ヴァルデス家と共に新たな封土に移る事を決めた「寄子」の貴族たちである。
ヴァルデス選帝侯家の側近であり、現在もヴァルデス公国の宰相兼財務卿を務めるアインホルン侯爵家の旌旗のデザインは、「勇み立つ一角獣」である。
「魔神器」のひとつ、「金の魔導弓 クリューソス」と「銀の魔導弓 アルギュロス」を与えられたバウムガルトナー伯爵家(現在は、騎士爵家)の旌旗のデザインは、「矢を番え、背いて立つ二人の少女」である。
「魔神器」のひとつ、「エメスの指輪」を与えられたグアルネッリ伯爵家の旌旗のデザインは、「燃える指輪」である。
「魔神器」のひとつ、「デスサイズ
ヴァルデス公国は、君主国家であるが、同時に議院内閣制を採用している民主主義国家でもある。国会は「上院(ハウス・オブ・ロード」と「下院(ハウス・オブ・コモン)」で構成され、上院は事実上の「貴族院」、下院は「衆議院」である。
ヴァルデス公国の人口は、およそ、50万人。
女性の社会的地位は比較的高いが、識字率は、大きく男性に劣っている。
二大部族であるサイード族、ハザーラ族の肌はオリーブ色であり、スールー族、アクメト族の肌は、濃いブラウンの色味をしている。
ジェラード族、ザッタギア族は色素が薄く、ほとんど白人種と変わらない。
ハザーラ族もこれに倣い、異民族の都市を奪ってわが居住地と変えた。
サイード族の都市国家の首都は、ジャララカーン。
サイード家は、首都ジャララカーンに、「アブドゥルメジド宮」という、壮麗な宮殿を築き、
「アブドゥルメジド宮」には、「ハレム」が併設されている。
「ハレム」は本来、サイード族の貴族たちに献上するための美少女、美少年を生産するための施設であり、完璧な美貌とエキゾチズムを備えた人間を生み出すため、人工的の多種多様な人種が掛け合わされてきた。
その事は、当人たちも想像しなかった副産物を生み出す。
人種的な交雑によって、遺伝学でいう「雑種強勢」が起こり、肉体的にも、知能の面でも、特別に優秀な人間たちが誕生することとなった。
それが、十三の
ジャファルは、ヴァルデス公国次期大公位の第二継承権を持つアブド・アルラスール・ヴァルデスの祖父であり、アブドの母親シャルーシャ・アルラスール・ヴァルデスの父である。
カルスダーゲン亜大陸で、陛下の称号で呼ばれる資格を持つのは、帝政エフゲニアの
アルラスール家の旌旗は、「蒼き月の女神」。
ハザーラ族の首都の名は、バンジシール。
ハザーラ族は、バンジシールに宏壮な宮殿、「ドルマバフチェ宮」を建設し、
ハザーラ族の正規は、「
サイード、ハザーラ以外の
基本的に遊牧民にとって、家畜から得られる恵みを除けば、欲する物は全て他者から奪う対象であり、農耕民族が収穫の時を迎えて、嬉々として作物を収穫するように、遊牧民族は、同じく嬉々として農耕民族の土地を急襲し、農民たちが丹精を込めて育てた穀物を暴力で強奪する。
女性の権利は無いに等しく、南方を旅した紀行家は、「
クリスタロスは、アポリネール大河の河口に築かれ、西の海に臨む自由都市である。
アポリネール大河の水源である湖に立つのが、ヴァルデス公国であり、アポリネール大河が海に注ぐ河口に位置するのが、独立要塞都市クリスタロスである。
クリスタロスは、海洋と大河に守られた天然の要害であり、河口は「大鉄鎖」によって、封じられ、海路は遠浅の珊瑚礁となっている。
珊瑚礁には水路が掘削され、
巨大な三重外壁と堤防、そして大河を遮る「大鉄鎖」によって守られたクリスタロスは、亜大陸の外から到来した、エリアーデという一族が統治している。
クリスタロスの旌旗は、「地球儀を水没させるセイレーン」。
クリスタロスの力の根源は、ふたつ。
莫大な資金量を誇る「クリスタロス銀行団」と私設の海軍である。
しかし、クリスタロスの真の海軍力は、エリアーデ家に与えられた「私掠許可証」を以て活動する海賊船団である。
エリアーデ家にとって海賊たちはいわば、放し飼いの海軍であり、海の上で強奪した品物はクリスタロスが買い取ってくれ、クリスタロスはそれを加工して転売する。
クリスタロスの最高権力者は、クリスタロス総督であるアルスノヴァ・エリアーデであり、アルスノヴァはクリスタロス銀行団の総裁を兼任している。
クリスタロスのもうひとつの力の象徴である海軍は、アルスノヴァの実姉であるネフェルタリ・エリアーデが海軍提督として、これを総覧している。
クリスタロスとエリアーデ家は、カルスダーゲン亜大陸を「蛮土」と呼んで軽蔑し、最低限の外交的儀礼を除けば、その内情に積極的に関わろうとはしない。
これが、カルスダーゲン亜大陸の地理である。
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