第27話 大スフィンクス

 クフ王のピラミッドの東側に王妃のピラミッドが3つある。

 言われなければ気づかないほど小さい。

 わたしはそれを見ながら、熱中症にならないようたっぷりと水を飲んだ。

 気温は高く、陽射しは強く、熱風が吹いている。

 クフ王のピラミッドを越えると、高さ143メートルのカフラー王のピラミッドが眼前に広がった。

 高台にあるので、標高はクフ王のものより高い。

 頂上付近に残っている化粧石が特徴的だ。

 さらに特徴的なのが、ピラミッドの参道にある大スフィンクス。

 ファラオの顔とライオンの身体を持つ。

 神聖な存在とも怪物とも言われる。

 カフラー王のピラミッドと同時代につくられたという説ともっと以前からあるという説があり、定まっていない。

 スフィンクスの像はエジプト各地にあるが、ギザのスフィンクスが最大で、全長73.5メートル、高さ20メートル、幅は19メートル。1枚岩から彫り出した像としては世界最大である。

 わたしはスフィンクスの見事な造形に見惚れた。

 そのとき砂嵐が巻き起こり、わたしは右腕で目を守り、まぶたを閉じた。

 砂嵐の気配が消えて、目を開けると、石灰岩でできているはずのスフィンクスの身体が、リアルな人間の頭部とふさふさの毛並みのライオンに変化していた。

 唐突に出現した大怪獣。

「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。それはなんだ?」と若く美しい男性の顔をしたスフィンクスが言った。

 ギリシア神話で、スフィンクスは旅人になぞなぞを出し、答えられないと食べてしまうという記述がある。

 わたしもまちがったら食べられてしまうかもしれないが、このなぞなぞの答えは有名だ。

「それは人間ですね。赤ん坊のときは4本足でハイハイし、成長すると2足歩行し、老いると杖をついて3本足になります」

「むう。おまえは聡明だな」

 いや、別に聡明なわけではなく、現代日本ではこの話は有名なんですよ。

「では次の問題だ」

 わたしは驚いた。2問目があるという話は聞いたことがない。

 神話では正答されて、面目を失ったスフィンクスは谷底へ身を投げて自殺するのだが、この怪獣は面の皮が厚いようだ。

「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足、真夜中は0本足。それはなんだ?」

 簡単な問題でよかった。

 しかし、もしまちがえたら、食い殺されてしまうかもしれないのだ。

 わたしは少し緊張しながら答えた。

「それも人間ですね。特に現代人によくある状態です。晩年の人間は寝たきりになり、手も足も使わなくなります」

「なんと賢い女だ。おまえは生かしておいてやろう」

 スフィンクスがそう言った直後、また砂嵐が起こった。

 巨大な怪獣は砂嵐の中で瞬間的に石化し、もとの石灰岩の像に戻った。 

 最後に1番低い、高さ65メートルのメンカウラー王のピラミッドを見物して、わたしはギザからカイロに帰った。

 帰りのバスも混んでいた。

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