第28話 サッカラ

 エジプトにはギザの3大ピラミッドの他にもたくさんのピラミッドが存在している。

 それらを見たいと思った。

 カイロから南に30キロの距離にサッカラという街があり、そこにいくつかのピラミッドがあるらしい。

 サッカラへ行ってみよう。

 ネットで調べたが、カイロからサッカラへの直通バスはなかった。

 乗り換えが面倒なのと、まちがえて別の場所へ行ってしまうのが怖いので、タクシーで行くことにした。

 タクシーにはメーター式と料金交渉式の2種類がある。

 メーター式であっても、メーターが壊れていることがあるらしい。

 さらにエジプトでは、バクシーシという金銭の要求をされることが頻繁にある。

 いったいいくらぐらいかかるのだろうと心配になったが、あれこれ考えすぎては旅はできない。

 ギザを見物した翌日の午前9時頃、わたしはタハリール広場で手を挙げ、タクシーをつかまえた。

 乗車前にタクシーの窓から運転手と料金の交渉をした。

「サッカラに行きたい。ハウマッチ?」

 運転手はメーターを指さした。このタクシーはメーター式だったのだ。

 わたしはタクシーの後部座席に乗り込んだ。

 髭面のタクシー運転手はおしゃべりだった。

 どこから来た、エジプトに来て何日目だ、結婚しているのか、などといろいろなことを無遠慮に訊かれた。

 わたしは人付き合いが下手で、初対面の人と話すのは特に苦手なのだが、運転手の機嫌を損ねないように、懸命に答えた。早く到着してくれ、と乗車している間ずっと願っていた。

 サッカラに着いたとき、メーターの数値は36だった。

 わたしはバクシーシも含めて、50ポンド紙幣を運転手に渡した。

 当然のように受け取り、お釣りは返ってこない。だが、日本円にして千円にも満たない金額だ。これでトラブルなしで移動できたのだから、上々だ。

 チケットを買って、サッカラのピラミッドエリアに入場する。

 目玉はジェセル王の階段ピラミッドだ。

 紀元前2650年頃に建造された世界最古のピラミッドで、高さは62メートル。6段の階段状になっている。

 約300万個の石灰岩のブロックが積み上げられているが、その厚さはわずか10センチメートル程度と薄い。

 巨岩を積んだギザの大ピラミッドと比べると、建築は容易そうだ。高度な技術はなくても、人海戦術でつくれただろう。

 しかし、どうしてこんな巨大な建築物をつくったのかという点はやはり謎で、定説はない。

 ウナス王、ウセルカフ王、テティ王のピラミッドも見た。

 どのピラミッドもかなり風化が進んでいて、ただの砂山のようになっていた。

 人の営みなど、どんなに財力と労力を傾けようと、いつかは砂になるのだ。

 やがてはこの砂山も平らになって、周囲の砂漠と同化してしまうのだろう。

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