第22話 シエナ

 フィレンツェには2泊した。

 次はローマへ行こうと思っていたのだが、美味しいものが食べられそうなので、鉄道でシエナへ向かった。

 車窓からは緑濃いブドウ畑の丘の連なりが見られた。

 これぞトスカーナだ、と思う。

 中世のシエナはフィレンツェと抗争を繰り広げた強大な都市国家だった。

 1260年のモンタペルティの戦いで、シエナはフィレンツェに大勝を収めた。

 1269年にはコッレ・ヴァル・デルサの戦いで逆に大敗を喫した。

 負けたが滅びることはなく、フィレンツェとの関係を改善し、しぶとく生き永らえていく。

 金融業で栄え、1472年に創業したモンテパスキ銀行は、現在営業している銀行では世界最古の歴史を持ち、いまもシエナに本店がある。

 シエナ駅からドゥオーモへ向かった。

 シエナのドゥオーモの正式名称はシエナ大聖堂。わかりやすくてシンプルな名前だ。

 イタリアン・ゴシックの装飾が美しいが、ふーん、すごいね、と思っただけだった。

 繰り返しになるが、わたしはあまり人工建築物には感動しないのだ。

 しかし、現在も中世の街並みが残っているシエナの路地歩きは楽しかった。

 建物単体で感動することは少ないが、街歩きは好き。

 シエナの道は曲がりくねっていて、方向感覚が狂う。

 ちょっと迷子になるのも、散歩の楽しみのひとつだ。

 思いがけず見つけた華麗な建築物には心を動かされたりするから、わたしの感覚なんて適当なものだ、と我ながらあきれる。

 シエナのリストランテでは、期待以上のごちそうを食べることができた。

 ピチ。

 ほうれん草入りニョッキ、鴨のソースあえ。

 詰め物をした鳩のネズの実風味、赤ワイン煮。

 仔牛薄切り肉のソテー、エストラゴン風味。

 パンフォルテ。

 ピチはうどんに似た太いパスタで、もっちりした粘りのある独特の腰があり、讃岐うどんの名品に勝るとも劣らない。

 鴨のソースは絶品で、ニョッキを噛むごとに野生のコクと旨味が口の中にあふれた。

 鳩がこんなに美味しい食材だとは知らなかった。鴨を超えるかも。

 甘いハーブの香りをまとった仔牛の薄切りは上品で、極上の肉汁を味わえた。

 伝統的なお菓子パンフォルテはナッツやドライフルーツがたっぷりと入っていて、食べ応えがあった。

 当たりのリストランテに入れて、最高にしあわせだった。


 フィレンツェとシエナで87,100円使った。

 移動費6,200円。

 宿泊費37,000円。

 食費41,800円。

 その他2,100円。

 これまでの総支出942,000円。

 旅費残金9,058,000円。  

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