2話……?天音

 ───バタン

 葵君が無事帰ったのを見届けてから取り繕っていた仮の笑顔をはがした。

 位置情報アプリ……いや、GPSアプリをみる限り葵君はまっすぐ家に帰るみたい。

 ……良かった。

 位置情報アプリを使ったのはこれが初めてだけど、きちんと機能しているのかいないのか、よくわからない。

 アプリを入れてから、何度も使いたくなったけど、それだとなんだか葵君を信頼していないみたいで我慢していた。

 でもこればっかりは、仕方ない。

 いくら葵君を信頼していても、危険な目に会うか会わないかとかは関係ないから。

 そればかりが、毎日毎日怖かった。

 もし葵君がいなくなったら、なんて、考えるだけでも恐ろしくて震えてしまう。

 ほっと息つく。どうやら葵君は、無事に家に帰れたみたい。

 やっと、安心できる。

 そう思うと、体が重たくなって眠くなってくる。

 私は最後の気力を振り絞ってベットに倒れ混んだ。

 今日はいろんなことがあったな……。

 ──あ、残った睡眠薬、処分するの忘れてた。

 まぁ、別に明日でも、いいか、な?

 気がついたら私は眠ってしまっていた。

────────────────────

 ……疲れて寝たはずなのに、過去にいる、なんてこと、現実にあり得るのだろうか?

 孤児院、楽しそうに笑う沢山の子供たち、そして、一人ぼっちの自分。

 私の過去ながら、惨めだなと感じた。そして、どうでもいいな、とも……少しだけ、感じた。

 そんな私に差し込んだ、一筋の『光』。そして、『希望』でもある葵君の存在。

 彼だけは、彼の存在だけはどうでもいい、なんて感じたことはなかった。

 むしろ、ずっと考えていたい。心が浄化されるような気がするの。

 この私のひねくれた気持ちを、私のすべて

を浄化してくれているような、そんな気がしたの。

 だから、私が葵君に執着してるんだろうなって改めて思った。

 本当はわかってた。私の価値観がみんなとずれていることも、私がしてきたこと、私の感情すべてが『普通』ではないんだって。

 苦しい、痛い、つらい。これは過去に感じていた感情。

 でも、葵君がそばにいて、私を認めてくれるだけでそれすらも、どうでも良かった。

 幸せ。

 ん、なんだか、頭がふわふわする…。い、意識が……やだ、まだここにいたいの、お願い、お願いっ─────

────────────────────

「?!っ……はぁ、はぁ」

 急に体にリアルな感触を感じて、ガバリと勢いよく起きた。

 視界に広がるのは、別に何も変わらない、いつも通りの光景だった。

 静かにスマホを確認する。

 今日は、平日。早く準備しないと間に合わない時間。

 制服を着て、必要なものを棚から引っ張り出して、顔を洗う。

 ここまでは、いつも通り。

 リビングに行って、キッチンはスルー。今日は時間がない。

 家を出るまで、後30分くらい。ご飯を食べるには十分だけど、今日は他にやることがあった。

 引き出しから睡眠薬を取り出して、隣の引き出しからはライターを取り出す。

 睡眠薬に、静かに火をつける。パチパチと静かに燃えた。

「……うふふ、とってもきれい」

 でも、時計を見て、我にかえって、コップ一杯の水を炎にかけると急ぎ足で玄関に行った。

「いってきます」

 姿見に写った自分に笑顔を振り撒いた。これでいつも通り。

 アプリを見る限り、葵君は今、家を出たみたい。これなら、会えるかな?

 私は心を踊らせながら家を出た。

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