第20話 愛
あれは……俺が施設を脱走した時のことだった。
「……ぐすん、う、ぅ。おと、さん、おか、さん」
一人で、真っ暗で、気づいたら俺は、顔も知らないお父さんお母さんをよんでいた。
すると、施設の先生のうち、俺がよく関わっていた先生一人が息を切らしながら走ってきた。
「……」
先生は少しためらったあと、決心したかのように話しかけてきた。
「……葵君、帰ろっか。みんな、待っているよ?」
俺を怒ることなくにこっと笑った先生は、俺の手をとって、歩きだした。
そんな先生に俺は静かに質問をする。
「先生、俺の親って、だぁれ?」
その質問に、さっきまで笑っていた先生の顔が歪んだ。
「そ、それは……」
そこで先生は自分の手で自分の口をおさえた。
……やっぱり、教えてくれないんだ。
それが悲しくて、悔しくて、俺はさらに質問をした。
「お父さんとお母さんは、今どこにいるの?先生ならわかるでしょ?俺、二人に会ったこともないんだよ……」
不思議と、目から涙がこぼれてきた。
先生もおろおろとして困っている。でも、俺には関係無い。
「愛って、なぁに……?」
「………わからない。その代わり、私が、私たち先生が愛してあげるからもう……もう、帰ろっか」
先生……。質問には答えては、くれないんだね。
その日施設に帰ると、天音だけが、泣きながら出迎えてくれた。
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………懐かしいな。
結局、愛ってなんなんだ?それは、何年経ってもわからなかった。
シュンのように、どれだけ仲が良い友達がいてもいつも心の中では距離を置いていた気がする。
なんでだろうな。天音からもらった愛は、正しいと思ってしまった。
そして気づけば俺は、天音に………「一緒に死んでくれるか?」そう言っていた。
それに対して天音は、嬉しそうに「うん」と答えた。
当たり前だ。やっと、……やっと救われるのだから。
そのまま天音は二つナイフを持って来て、一つは俺に渡すと、もう一つのナイフを俺の胸に突き立てた。
俺も同じように手に持っていたナイフを天音の胸に突き立てると、天音は静かに頷いた。
「あお君、巻き込んじゃって、ごめんね?」
「後、ありがとう。愛してる……」
そう言って天音は、俺の胸にナイフを突き刺した。
「うっ……」
「……あお君?あお君早くっ、早く刺して?ねぇっ……」
ギュッと俺の手を握る天音に俺は……俺は言葉を告げた。きっとこれは……天音が一番嫌がる言葉。
でも、それでも俺が天音に伝えたのは……愛について、少し、少しだけ、わかった気がしたから……。
目が見えない。耳鳴りがする。体が動かない。……嫌だ、死にたくない。
口は動いた。声は……聞こえたかな?
聞こえてるといいな。
伝わっていて欲しい。だってこれは──俺が導き出した『愛』だから。
そこで俺の意識が───途切れた。
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私は、あお君を刺し殺した後、しばらく動くことができなかった。
「……っふ、うぅ。こんな、こんなの、あんまりだよぉ……」
もう、あお君には会えない。私には、冷たくなっていくあお君にすがることしか、できない。
「……うぇ。お、え」
本当は、今すぐあお君の後を追って死にたい。
でも、できない。できないんだよっ。
あお君が最期に残した言葉……それは──
『生きて』。
だから私は生きる。正直なんで、あの時あお君が私を生かしたのかはわからない。
けど、私、生きるよ……あお君。
どうしてかあお君が、笑っているような、謝っているような気がした。
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