第17話 私たちの過去(1)

 あれからつらくもない愛の時間を過ごすようになって、だいぶたった。

 そして私は、お父さんに弟子入りをしていた。

 習ったのは、人の愛し方、自分の身の守り方(優しい暴力の奮い方)、等々……。

 毎日毎日、必死になった。その事に、お父さんも、お母さんも、涙を流して喜んだ。

 正直、いまだに二人の気持ちは理解できないや……。

 でも、やっと手に入れた、幸せな毎日。

 お父さん、お母さんにかまってもらえて、なんだか二人に近づけた気がした。 

 そんな幸せも、またすぐに壊れた。ついにお母さんが壊れたんだ。

 まぁ、なんとなくわかってたけど………。

 壊れたお母さんは、お父さんにも止められなくて、止めようとすると、刃物を振り回すので油断なんてできなかった。

 ある日、私はなにを思ったのか、お母さんに話しかけていた。

 そしたらさ、お母さん、私のこと床に押さえつけて、刃物で私の首を切りつけてきたんだぁ。

 それがさっき見せた傷だよ。

 それを見て、さすがにお父さんが駆け寄ってきて、お母さんから刃物を奪い取ると怒鳴った。

 あんなに怖いお父さんを見たのは初めてだったなぁ。

 まぁ、それだけ愛してくれてたんだよ。そのせいで監禁されてるんだし。

 でも、傷が痛くて痛くて痛くて、すっごく苦しいのに手当てするだけ。

 こんなときでも、相変わらず外には出してくれないみたい。

 でも、大好きだから。なんともないの。


 幸せな日々を送っていたある日、お客さんが来た。

 私が閉じ込められてから、初めてのお客さんだった。

 複数人の、おじさんたち。

 お父さんは青ざめて、お母さんは無視。

 お父さんとおじさんたちが、なにかを話している。

「ちょっといいですか?だいぶ前から、お宅に騒音や、子供の泣き声がうるさいと苦情がきています……」

「……は?」

 青くなっていたお父さんの顔が、さらに青くなっていく。

「様子見もかねて、中に入れて下さい」

 すると、一人のおじさんが私の近くに来て言ったんだ。

「もう大丈夫だよ。すぐに幸せになれるからね。友達だっている」

 わからなかった。これ以上の幸せ?あるわけない。そう思い込んでいたから、私は拘束されかけているお父さんとお母さんをかばった。

「別にいい。私、幸せだもん。だから、だから、お父さんとお母さんを連れていかないでよ………」

 意味がわからないから、半泣きになりながらおじさんたちにすがる。

 すると、その場にいた人たちが、「可哀想に」なんて言い始めた。

 お父さんも、やっと自分のやったことに気がついたのか涙をこらえながら謝ってくる。

 知らないおじさんたちがうちに来てから、お父さんとも、お母さんとも会えなくなって、その代わり、たくさんの子供と、少数の大人がいる施設に行くことになった。

 おじさんたちによると、ここは「楽しくて明るい、いい場所だ」って言ってた。

 そこでは、みんな平等で、暴力なんて、ほとんどない。

 でもさ、一人だけ、いたんだよ。いじめられてる子がさ。

 年下で、髪が肩まであって、少し女の子っぽくて、とっても優しい子。 

 気付いた?そう、葵君だよ………。

 いや、あお君、かな?

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