第16話 私の過去

 ───葵君が私に告白してくれた、あの日からちょうど十七年前、私は産まれた。

 聞いた話だけど、私、産まれた時は少し、体重が足りなかったらしいんだけど、しっかり、元気な産声を上げたらしい。それに、たくさんの人たちに囲まれて生まれたんだってさ。 

 私、愛されてたんだなぁって。

 それからしばらくは、幼稚園にかよって、たくさんの友達に囲まれて、お父さん、お母さんと遊びに行ったりしてさ……

 そう、楽しかったんだ。ここまでは……。

 あれは───四歳くらいの時かな?

 告白されたんだ。

「ぼく、大きくなったら天音ちゃんとけっこんする!」ってね。

 私、まだ結婚がなにかわからなくてさ、とりあえず「うんっ」ってあんまり考えずに、返事しちゃったの。

 帰ってから、お父さんとお母さん、二人に話したの。

 そしたらね、閉じ込められたの……。お家に……。なんか、「私たちの天音なのに」ってすごく怒ってた。

 あの頃はよくわからなくて、怖くて泣いてたんだけど、今ならわかるよ、なんとなく。

 しばらくしても、二人が私を解放してはくれなかった。いや、むしろ悪化していた。

 窓には鉄格子がつけられて、カーテンは常にしまっていたため、部屋は暗い。

 それに、一番おかしかったのは……いつからか始まった愛の時間。毎晩欠かさずにあった、愛を感じられる時間。

 その時間は、ひたすら痛みに耐える、地獄の時間。殴られたり、蹴られたり、首を絞められたり、たくさん……。

 私はつらかったし、痛いのは嫌いだったからその時間は好きではなかったけど、お父さんとお母さんは違った。

 大人の愛しかただから、わからないのも無理はない。もうじき慣れるって。

 お父さんは「愛してるよ」とか言いながら楽しそうに暴力を振るってくるし、お母さんは嬉しそうにお父さんを見つめている。

 その間、私は痣をさすりながら縮こまる。

 正直言って、イカれてる。

 だけど、朝、朝まで耐えれば優しいお父さんとお母さんに戻るから、だから耐えてこられたの……。

 でも、それも長くは続かなかった。

 お母さんは、時間関係なく毎日愛(痛み)を求めるようになっていった。

 お父さんは──あまり変わんなかったけど、楽しそうな二人を見ているうちに、私は邪魔なのかもしれないと思うようになった。

 だから私は、夜になるまで部屋にこもるようにした。

 一応、一人部屋はあったから……。窓には鉄格子がつけられているけど、カーテンをよけて、外を眺めていた。

 お腹がすいて、毎日毎日苦しかったけど、こんな私に寄り添ってくれるやつがいた。

「にゃ~ん……」

 そいつは窓を開けてあげると、鉄格子をくぐり抜けていつも、私の傷を舐めてくれるんだ。

 そいつは………猫だった。黒い猫。猫は、閉じ込められる前に何度か見たことがある。

 救いだった。お腹がすいたと言うと、どこからか魚を持ってきてくれたし、そばにいて欲しいと言うと、膝の上に乗ってくれた。

 ある日、そいつに対してこんな感情がわいた。変わってほしくない、親のようになってほしくないと………。 

 だから私は………そいつの首を締めた。だって、私の愛が伝われば、こいつも変わらないと思ったから。

 だからこれは───私なりの愛情表現。

 しばらくして、私はそいつから手をはなした。

 そいつが動くことは──なかった。

 なんで?少し首を締めただけなのに……?

 焦った。でも、なんだか、すっごく安心したの。

 だって───これならこいつが変わることは、ないでしょう?

 ふふ。気づかないうちに私も───────狂っていたみたい。

 その日から私は………愛の時間を辛いと思わなくなっていた。

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