第14話 彼女の家

「……つ、ついた。ってぇ」

 見上げると、すぐ目の前に建っていたのは立派なタワーマンション。

 入ったこともない、見たこともない景色に少しびくびくしてしまう。

 あ、天音はいつもこんな立派なところに住んでる、のか……。まぁ、お嬢様っぽいもんなぁ。

 待ち合いスペースで天音のことを待っていると、俺に気づいたのか天音がかわいらしい小走りでかけよってきた。

「……葵君、行こうか?」

「う、うん……」

 一瞬、天音から感じたことのない闇が感じられたような気がしたが、すぐにいつもの笑顔に戻ったので……気のせい、だろう……?

 しばらく歩き、エレベーターに乗り、また少し歩いたところで天音の部屋に着いた。

「葵君、ようこそ……」

「あ、う、うん。ありがとう……?」

 なんだか、天音の様子がおかしい。暗いって言うか、なんと言うか……。ううん……?

「今日葵君を呼んだのはね……いや、ごめんなんでもない。ご飯食べてく?」

 なぜだろう?俺に断れと誰かに言われているような……?

 でも、断っちゃダメな気もするし……。

「……う、うん、そうしようかな?」

「そう、じゃあ上がって上がって……」

 りょ、了承してしまった。ま、まぁ、大丈夫だよ、な?

「もう少しで準備終わるから、そこのソファーに座って待ってて……」

 それだけ言うと天音は、パタパタと急ぎ足でキッチンの方へ行ってしまった。

 やることもなく、キョロキョロと部屋を見回した。 

 案外シンプルで、無駄な物がないように見える。ちなみに家具などは黒で統一されていた。

 なんというか、すごくおしゃれだ。

 しばらくボーッと見ていると、天音から声をかけられた。

「もぅ、 じろじろ見ないでよ、恥ずかしいから……。ご飯できたから、こっちきて」

 少し赤らんだ顔で、恥ずかしそうに天音が手招きをした。

 俺は立ち上がり、天音から言われた椅子に座る。

「食べよ食べよ、葵君。自信作なのよ」

「お、美味しそう……」

 唐揚げにフライドポテト、サラダ、ビーフシチュー……カロリーは高そうだけど、どれも美味しそう。

「美味しそうじゃないわ、美味しいんだから

ねっ!ほら、いただきます」

 先に天音が料理を頬張ったので、俺もあわてて手をあわせて、

「いただきます……」

 そう言ってから唐揚げを一口食べた。

「……っ!ん、んうう、お、美味しい!」

 さすが、天音だ……。なんというか、美味しすぎて止まらない。

 その後しばらく、天音と他愛もない会話を交わしながら食事をしていた。

 でも、そこで体の異変にも気づいた。

「……?」

 な、なんだ?天音の声、が……遠いよう、な……?

 さっきまでなんともなかったのに、なんだかすごく……眠いや……。

 ──コトンッ

 持っていた箸が手から滑り落ちた。手に、力が入らない……?

 戸惑っていると、天音の話し声が聞こえてくる。……なんて言ってるかは……よく、わからなかった。

「ふふふ、後、少し……後、少しでうふふふふふふふふふふふふ」

 なにを言っているんだ?天音っ………。

「ああ、いけないわ……。後少しなんだからがまん、しないと、ね?」

 その天音の不敵な笑みを最後に、俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。

────────────────────

「……葵君。もう、聞こえてないかな?」

「……ずっとずっと、好きだったの……許してね」

 不思議と、私の目からは涙がこぼれた。静かに涙をぬぐって私はそっと、葵君の頬にキスを落とした。

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