第13話 堕ちた……? 

「……っ、は、ぁ」

 この前行った路地裏、正直どこかあやふやだったんだけど、不思議とすんなりたどり着くことができた。

 俺が着くとそこには、すでに謎の少女……あおが立っていた。

「きた、ね……。正直来て欲しくなかったなぁ。呼んだの私か、あはは……」

 あおは、自分が呼んだにもかかわらず、苦笑いをした。

 泣いたのだろうか?目元は赤く腫れ、鼻も少し赤かった。

 意味もなく、二人して見つめあっていると、俺の電話が鳴った。

 相手は……今度こそ天音本人だった。

「……あお、出ていいか?」

「………」

 睨まれた。あおの瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

 なんだ?あおは、天音のことが嫌いなの、か……?あおから感じるのは……敵意。

 でも、電話に出ないわけにはいかないので俺は、覚悟を決めて勝手に電話に出た。

「……あ、天音?大丈夫、なのか?今、どこに……」

「……」

「……?あ、天音?」

 返事がない?とりあえずもう一回呼んでみるか。

「あっ……」

「もう、聞こえてるって……。何回も呼ばないでよ……」

 天音からは、うんざりしたような、そんな声が聞こえた。

「……え?」 

「あぁ、ごめんね。今から私の家に来て」

「で、でも今は……」

「いいから……さぁ、はぁ。もう……」 

 行きたい、でも今はあおと……見るとあおは俺のことを静かに睨んでいた。

 う、ううん……。よしっ!

「いやごめんなんでもない、天音。今から向かうよ……」

「うふふ。ありがとう、葵君。住所は後で送っておくね。あと、さっきは急に逃げちゃってごめんね。じゃあ……」

 そうして電話は切れた。果たして、これで良かったのだろうか?

「……ねぇ」

 はぁ。次はあお、かぁ……。あおのことを考えると憂鬱な気分になってしまった。

 さて、どう説得する、か……。

「ねぇっ!」

 なんて考えていたのがダメだったのか、急にあおが叫んだ。

「っ……は、はいっ!」

「……行くの?」

「う、うう?うん………まぁ」

 俺が勢いよく答えると、あおがさらに大きな声で叫んだ。

「ま……まだ気づかないのっ?!」

 急なことで俺がびくりと肩を震わせると、反応したのか次は少し小さな声であおが叫んだ。

「……ごめん。で、でもっ、いい加減目を覚ましてよっ!葵を悲惨な未来に導くのがっ、天音だってことにさぁっ」

「は?」

 どういうことだよ、あお……。

「あ、いや……ごめん、ごめんなさ、ここまで言うつもりは……」

 あおも口を滑らせてしまったのか、涙目で戸惑っていた。

「教えてくれよ……あお」

 俺は、真剣にあおを見据えた。しばらくして、観念したのかあおがため息をついた。

「……気になる?……あ、そう。別に、知らなくてもいいじゃん。彼女と関わらなきゃいい話でしょ?」

「それは……できない」

 俺の答えに、あおはすごく間抜けな、すっとんきょうな声を出した。

「へ?な、なんでっ?!自分の命が惜しくないのっ……」

 その問いに俺ははっきりと……

「あぁ、惜しいね……」

 と答えた。そうだ、怖い。惜しいに決まってる。

「じゃあ、なんで……」

「好きだからだよ。離れたくないからだよ。いとおしくて仕方がないんだ。いつからだろう?俺がこんなに狂ったのは……」

 俺にも、わからない……。俺にも、理解できないこの気持ち……。

 もし、ヤンデレという感染病があったとしたら、天音から俺に移ったのだろうか?それとも───俺から天音に移ったのだろうか?

「……いかない、の?」

「……へ?」

 少し、あおの言葉を理解するのに時間がかかってしまった。だって、さっきまでずっと嫌がっていたのに……

「わ、私だって、そんなに子供じゃないし、さ……。嫌われたくない、し……」

「………もう、後悔なんてしたくないんだよっ。怖いんだよ。でも、葵が後悔する方が、もっと嫌。でもこれだけは言わせて……私はいつまでも、葵の味方だから、さ。ほら、早く行かないとね、彼女が待ってるよ……」

 言い終わるとあおは、笑顔で背中を押してくれた。

 そんなあおに俺も笑顔をかえし、天音の家に向かった。スマホを見ると、すでに住所は送られていた。

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