第12話 少女……。

「………」

 近づくと、人混みの中心で二人の男女が何かの紙を配っていた。

 まぁ、大方どこかの広告チラシだろう。懐かしいな、俺も前まで、広告チラシとか配ってたなぁ。

 でも、結局受け取ってくれても近くのゴミ箱に捨てられてたり、受け取ってすらもらえなかったり……。

 正直めっちゃつらかったし、やる意味あんのかなぁって現実逃避しながら配ってた。

 なんて、呑気にそう思ってたんだが、なんか、違和感を感じた……ような気がした。

 普通のビラ配りとは、何かが違うようなよくわからないような?

 なんて考えていると、女性の方が大きな声で何かを言った。

「本当にっ、なんでもいいんです。なんでもいいの、で……」

 女性が泣き出したところで、男性の方が続けた。

「うちの、私たちの娘なんですっ。ご協力お願いします……」

 あっ、全然違ったわ……。まあ、そうだよなぁ。ただのビラ配りに人混みができるわけないもんな……。

 そこで気づけば良かった。すると、男性の方と目が合い、さっきまで配られていたであろう紙を渡された。

「き、君っ。娘のことを知らないか?実は、娘の年齢も君と同じくらいでね……」

 すると、女性の方も近づいてきて、泣きながらすがられた。

「お願いします……。本当に、なんでもいいので、だから……」

 俺が戸惑っていると、男性の方が女性の手を引いて立たせた。

「ほら、もう行こう。ここにいても仕方ないだろ?」

 男性が頭を下げると、女性も泣きながら頭を下げ、去って行った。

 俺も二人に頭を下げ、もう一度チラシを見直した。そこには………

・名前 海野 天音(うみの あまね)

・年齢 17歳

・特徴 黒髪に黒曜石のような瞳

    首に火傷があります

・性別 女

 心当たりがあったら次の電話番号に連絡をください。

???─????─????まで。

 ……天音。同じ、名前。なんか、嫌な予感がする。そう言えば天音、どこ行ったんだろ?連絡は……きてない。

 こうなったら、最終奥義……迷子センターの迷子放送だっ。

 17歳で迷子放送………恨むなよ、天音。

 覚悟を決めて俺が迷子センターに行こうとしたところ、誰かから電話がかかってきた。

 ちなみに言うと、俺に電話に、がかかってくることはめったにない。

 理由は簡単、俺には家族がいないし、シュン以外の友達がいないからだ。だから、天音だろうか?まあ、天音だろう。運が良かったな、天音……。

 そう思ったので俺は、相手を確認もせずに電話に出てしまった。

「……天音?天音、今どこにいるんだよ?」

「あ、出た出た。葵、なんで電話、すぐに出ないの?」

 は、誰、だ?急いで画面を見ると、非通知からだった。

「えぇ、忘れたの?私だよ、あお……」

 あぁ、思い出した。この前の、路地裏の………。いや、まず今は……。

「切ってもいいか?あお、今俺、忙しいんだよ……」

 とにかく今は、天音を探さないといけないんだ。

「……そんなに、あの子のことが大切?」

 あの子?天音のことだろうか。なんで、知ってるんだ?

「あぁ、大切だよ。誰よりも、な……」

 俺が答えてから少しして、泣き声が聞こえた。

「……う、ひっく、わかったよ。あの子のこと、教えてあげる。だから、この前の路地裏にきて……」

 それだけ伝えられあおは電話を切った。

 本当に、なんなんだよ。意味わかんねぇ。その事に俺は、少しイライラしながら重い足取りで路地裏に向かった。 

「いみ、わかんねぇ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る