第8話 ???配信

「ふへへ……。葵君、予想通り監視カメ……ぬいぐるみ、ベッドに置いてくれたぁ」

 私は六つ並んだ監視カメラのモニターを、うっとりと眺めながらそう呟いた。

 しばらくそうしていると、スマホがなり、通知がきた。

『今日の配信、楽しみです!頑張って下さいね!』

「あ、忘れてた……」

 考えただけで正直憂鬱な気分になったけど私は社長。みんなのお手本として、配信は、義務みたいなものだった。

 だから、憂鬱だけど私は監視カメラを録画モードにして、配信の準備を始めた。

「はあーあ………」

──────────────────── 

「信者のみんな、こんばんは。社長のアイビー・リーフ・ブラッディよ……」 

 『アイ』があいさつをすると、信者……視聴者のみんなからさまざまな反応が帰ってきた。

 ちなみにVTuberのほとんどは視聴者のみんなにファンネームというものをつけているものだ。(偏見)

 『アイ』の場合は『信者』、葵君……ウルは『お兄ちゃん、お姉ちゃん』だ。

「えっと、さっそくアイビーの花言葉はなぁんだっ?」

「っ!ま、まさか忘れた、わけないよね?」

 『アイ』が不安そうにみんなに問うと、素早くたくさんの返事が帰ってきた。

 : 『死んでも離れない』!

 : 『死んでも離れない』だ。

 : 同じく『死んでも離れない』でしょ?

「わあっ!みんなありがとう。『アイ』すっごくうれしいよ」

 はあ、もう、疲れた。偽りの笑顔も、明るい『アイちゃん』も……。

 でも、全部葵君のためだから『アイ』は、『アイ』は頑張れるんだ。

────────────────────

 そんなことを考えていたらすでに配信も、終盤に差し掛かっていた。

「ふふ、みんな。『アイ』、そろそろ疲れちゃったから配信終わろうかなぁ」

 : 寂しい!けど仕方ない。

 : いつもの!

 : お疲れ様!アイちゃん

「いつもの?ああ、やろうか……」

 一瞬戸惑ってしまったけど、すぐに思い出したので『アイ』は胸の前で手を組み、おまじないを始めた。

「どうか、信者のみんなに神のご加護がありますように……」

 目を瞑り、なるべく悲しそうな顔をして、いつものおまじないをしたつもりだったけど………なんだか苦しくて仕方なかった。

「……ふう、みんな。それじゃあ乙アイ!」

 今日の配信は、なんだかすごく……あっけなく終わってしまった気がした。

────────────────────

「ん、んんー。疲れちゃった……」

 私は配信を終えて『かわいいアイちゃんのモード』をきった。

 もう一人の私……アイビー・リーフ・ブラッディは、ウルまでとはいかないものの、同じくネットで絶大な人気を誇っていた。

 アイビーの特徴は、燃えるような真っ赤な赤髪に瞳。髪には黒薔薇を二輪飾っていて、髪型はハーフツイン。服は修道服で、至るところに十字架が飾ってある。

 少し闇が感じられるミステリアスな少女。アイビー・リーフ・ブラッディは育ちがいいお嬢様。そこは、私が演じやすいように少し似せて作ってある。

 それでも毎日演じていれば憂鬱になってくるもんだ。

 最近は、配信中じゃなくても無意識に完璧な『アイちゃん』を作ってしまって少し困っていた。だって……………

──────本当の私がどっか行ってしまったような気がするから。

「気持ちわる……」

 そう思いトイレに駆け込んだ私の顔が、気づかないうちに『完璧なアイちゃん』の笑顔になっていたことに、私は気づくことができなかった。   

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