第7話 初デート(3)
「あ、う、ううぅ………。もう、辛い物、いやぁ。まだ口の中、痛い……」
さ、さすがにやり過ぎたかなぁ。天音はあの後残りのパフェをかきこんでいたが、いまだに口が痛いらしい。
俺が心配して天音に声を掛けようと口を開いたが次の天音の言葉で遮られてしまった。
「……うふふ、なんで私ったら、こんな大事なことに気づかなかったのかしら。これからは、自分から辛い物をたくさん食べるとしましょう」
そして内容がそれなりにいかれていた。
こぇえ、こぇえよう……なんで、なんでだよ。辛い物は嫌だって言ってたじゃねえか。
俺はそんな気持ちを押し殺して天音に声をかけた。
「……あ、天音っ」
「え?」
「あ、いや……次、どこ、行く?」
「……う、うぅん?と、とりあえず、歩きながら考えよう、か?」
天音は俺に手を差し出し、照れくさそうに笑った。
俺はそんな天音の手を握り、天音に笑い返した。
「……そうだな、天音」
「っ!あ、え、ひゃ、ひゃい……」
そしてお決まりになりつつある天音の赤面もセットだ。そんないつも通りに俺は安心しながら歩くのだった。
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そして少し歩いたところで天音が足を止めて、俺に声をかけた。
「なんか、ここのお店?タバコ臭いしなんかすごくうるさくない……。なんか、怖いんだけど……」
そう言って天音が指を指したところは、まさかのゲームセンターだった。
もしかして天音……ゲーセンすら知らないのか………?だったら、このまま知らないほうがいいのかもしれない。
ここのゲーセンはパチンコなみに治安が悪いからな……。まあ、俺パチンコ入ったことないけどな。
そう思い俺は天音の手を引いたが、天音はそこに踏みとどまった。その行動に、俺は少し……いや、だいぶ驚いてしまった。
「天音……?」
「……い、行きたい。私、ここ、行ってみたい!だめ、かな?」
「うっ……」
か、可愛い。あ、天音のお願い、なら。しかも上目遣い、だと……。
俺は天音の可愛さに悶えながらなんとか返事をした。
「あ、あぁ。い、行こうか?」
「えへへ。やったぁ」
無邪気に笑う天音は、とても可愛らしかった。そして俺は、そんな天音を眺めながらゲーセンに入った。
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───だいたい二時間後。
俺の財布は限界を迎えていた。
「あれえ?おかしいなぁ。お金ってこんなに簡単になくなる物だっけぇ?」
財布の中身はすでに一万円を切っていて、さすがにやり過ぎたなあ、なんて現実逃避をしていた。
一万円あればって思うだろ?俺、家族がいない一人暮らしだから、正直ヤバい。
くっ。一ヶ月もやし生活で足りるかなあ? そもそも、全部こいつのせいだ。
俺はガラスの向こう側でびくともしない間抜けな顔をしたぬいぐるみをキッと睨んだ。
最初は応援してくれていた天音も途中から飽きてしまったのか、骨が折れそうなくらい強く俺を抱きしめ始めていた。……イタイ。
「む、むうぅ。葵君、暇ぁ……」
あ、あはは。これはもう限界っぽいな。天音も俺の財布も……。
「帰るか?天音……」
そう思ったので俺は天音に提案をした。すると天音はパッと表情を明るくして嬉しそうにうなずいた。
「あ。でもその前に私、お手洗いに行って来るね。すぐに終わるから先に出てて」
言い終わると天音は俺から離れ、歩いて行ってしまった。ここは治安が悪いので、少し心配になったが天音は強いので大丈夫だろうと思い、俺はゲーセンの入り口に向かった。
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「……遅い」
あれから約十分がたったが、いまだに天音が来ていなかった。
さすがに心配だし、周りからも「うわぁ、あいつ、約束すっぽかされたんだ。可哀想」みたいな哀れな視線を向けられて、正直限界を迎えていた。
なので見に行こうと戻ろうとしたとき、ちょうど天音が小走りで近づいてきた。
「……は、はぁ。ごめんね、思ったより時間かかっちゃって。ええと……はい、これ」
渡されたのはぬいぐるみだった。そう、俺がさっきまで狙っていたぬいぐるみ……。
え?すごくね?と、とりあえずお礼……
「あ、ありがとう。天音……」
俺は天音からぬいぐるみを受け取り、少しの間眺めた。
「……う、うれしい?」
小首をかしげ、不安そうに俺を見つめてきた天音の頭を軽く撫で、笑ってみせた。
「当たり前だろ?天音からもらった物なら、俺は何でもうれしいよ」
「っ!……あ、あうぅ。もう、は、早く帰るよっ。お、置いていっちゃうんだからね」
まったく、ヤンデレなのか、ツンデレなのか、よくわからない可愛い彼女だな。
俺は天音の手を握りしめ、二人で仲良く帰路についた。
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一瞬、バレるかな?とヒヤッとしたけど、どうやらバレなかったらしい。
良かった。葵君……知ったらどんな顔するかな?怖がるかな?受け入れてくれるといいな……。
きっと受け入れてくれるよね?だってこれがあればずっと一緒に居られるもんね?
「ふ、ふふふ……」
ああ、危ない危ない。聞こえちゃう………今はまだ、監視カメラのことは秘密にしないとね?
─────ね?ずっと前から好きだった、たった一人の大切な人。
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