第6話 初デート(2)
───あれから少し歩き………。
「あ、天音?」
俺たちはいまだに歩いていた。
「…………」
「天音?」
「……はっ!あ、ご、ごめ、ごめんね?」
やっと気付いてくれた。そのことに俺は、安堵していた。
………そ、それにしても、天音が無視って珍しいな。
なんて考えていると、天音が話しかけてきた。
「………ごめん、ね?どこ、行く?」
「そ、そうです、ねえ………」
二人して考えていると、12時を知らせるチャイムが鳴り響いた。
それにつられたのか、どうなのか、天音のお腹が鳴った。
そして、天音の色白の肌がみるみる真っ赤に染まった。ちなみに耳まで真っ赤である。
「……あ、え、これは、ええと。ううぅ」
「………あ、天音っ」
天音が涙目でうつむいてしまったので、俺はあわてて声をかけた。
「ひゃ、ひゃぁ。あ、葵君?」
「………天音、ご飯……行こうか?」
俺が天音にそう問うと、少し迷って天音は静かにこくりとうなずいた。
やっぱり………………可愛いなぁ。
「あ、葵君。どこ、行く?」
「!あ、あぁ。ううん?ふぁ、ファミレス、かなあ?」
「……?ファミレスって、なぁに?」
さ、さすがお嬢様あああああああああ。
(心の中の叫び)
「へ?」
そんな天音に俺は間抜けな声を出すことしかできなかった。
「あ、ご、ごめんね?私は葵君が決めたとこならどこでもいいけど、さっ!ファミレスよりも、高級フレンチいこ?もちろんっ奢るからさっ」
えへへ、と天音は無邪気に笑う。ご飯のことを考えているのか、天音の口からはよだれが垂れている。
う、うぅん。どうするべき、か?俺が迷っていると、それに気付いたのか天音が不安そうに俺を見てきた。
「…………。えへへ、ファミレス?一緒に行こうか?葵君」
だが、それは一瞬だけですぐに天音はいつもの無邪気な笑顔を向け、話かけてくれた。
優しいな、天音は……。
「あぁ。ありがとうな、天音……」
そう言葉を交わし、俺らは二人でファミレスに向かった。
────────────────────
「………わ、わああ。どれもお、美味しそうですぅ」
ただいま、天音がメニューを見ながらキラキラと瞳を輝かしております。
………この子、一体どれだけ食べるつもりなんだ。
天音はさっきから「これと、これと……」などと呟きながらメニューを眺めていた。
そんな天音に俺は声をかけた。
「あ、天音?そろそろ、な?」
「………あっ!あ、葵君っ。ごめんね」
天音のその声を聞いた後、俺は店員さんを呼んだ。
それから少しして、小走りで店員さんが来てくれたので、俺らは注文をした。
「わ、私は……う、うぅん、ナポリタンと、メロンソーダ、後………ぱ、パフェ、ください」
ま、まぁ……これくらい普通、だよな?
「……あ、葵君は?」
「…あ、あぁ。俺は、麻婆豆腐で。ちなみにこれ、辛さって……?」
「はい、十倍までなら可能ですよ。どうしますか?」
じ、十倍か……よしっ!
「じゃあ、十倍で……」
「えっ?」
その事に店員さんは驚いたのか、キョロキョロと周りを見渡すと、小声で話し始めた。
「……あ、あの。やめておいたほうが、いいですよ。私も一口食べたんですけど、それだけでお腹痛くなるくらい辛くて………。とてもじゃないけど、食べられなかったです」
「ふむ。お腹痛くなるくらいか……いいね」
ちなみに俺は激辛党だ。
「どこがですかっ。もう、お客様の自己責任でお願いしますね」
そう言い残し、店員さんは戻っていってしまった。
────────────────────
────それから数分後。
「……お待たせしました。では」
天音の頼んだ料理が運ばれてきた。天音はさらに目を輝かしている。
「……わ、わぁ。お、美味しそうです!い、いただきます」
天音は手を合わせた後、少し迷ってからナポリタンを口にした。
「……ん、んうぅ!美味しい……。今まで食べた、どんな高級料理よりも美味しい!」
少しして、天音はあっという間にナポリタンを平らげていた。ちなみに今は食後のパフェを頬張っている。
俺がそんな天音を眺めていると、やっと俺の料理が運ばれてきた。
「……大変お待たせしました。あ、お客様、十分にお気をつけて下さいね?では……」
よく見ると、運んできてくれたのはさっきの店員さんで、俺に最後の注意喚起をしてくれた。ほんと、優しい店員さんだ……。
するときれいに完食していた天音が俺に話しかけてきた。
「葵君、それ……美味しいの?」
まあ、天音の言いたいこともわかる。だって、運ばれてきた麻婆豆腐の見た目が明らかにファミレスで出るやつじゃないんだよな。たくさんの唐辛子に赤いスープ、それはまさに地獄を連想させた。
そして俺は気付いてしまった。地獄………じゃなく麻婆豆腐を見て涙をこらえ、ふるふると小動物のように震えている天音に。
そんな天音に俺は、意地悪をしたくなってしまった。
「……天音?食べるか?」
「…………へ?あ、え」
俺が声をかけると天音は一瞬肩を震わせ、戸惑いを見せていた。
天音の目が訴えてくる。いらない、それ、いらない、と……。
あぁ、俺の彼女可愛いなぁ。
ま、そろそろネタバラシ?するか……。なんて俺が呑気に考えていると、天音から予想もしていなかった言葉が聞こえてきた。
「………た、食べる、もん」
「へ?」
「………葵君の好きなもの、好きになりたいし」
そう言うと、天音はれんげを手に持ち、麻婆豆腐を取った。
や、ヤバい。天音、天音のれんげの中に、唐辛子が二本もっ。教えたほうが、いや、でも……。
そうこう考えている間に、天音が麻婆豆腐を口に入れた。
その瞬間天音が………
「∥∗∨∪√~×¢¥±₶¥<¥=¥=¥<₰₵!」
声にもならない悲鳴をあげた。
その後食べた俺もヤバかったことは、言うまでもない。
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