第5話 初デート(1)
「う、うぅん……もう、朝?」
俺はカーテンの隙間から覗く太陽の光に目を細めた。
今日は休日。つまり選択肢は一つしかないのだ。それは………そう、二度寝だ。
そう考え、俺がもう一度布団に潜ると、電話がかかってきた。
俺は一応スマホを手に取り画面を見る。天音からだ。
なので俺は電話に出ることにした。
「もしもし、天音?」
『そうだよ、ねえ、葵君。今日のデート、楽しみだね!』
「……あ」
や、やべえ……。完全に忘れてた。
『え?まさか、忘れてたとか言わないよね?そうだよね?あ、葵君がっ………私との会話を忘れるわけがないよね?』
……そして、俺の彼女の天音がヤンデレだということもな。
天音の問いに、俺は乾いた笑いをこぼすことしかできない。
「は、ははは。あ、当たり前、じゃないか」
すると彼女は安心したのかこう告げた。
『あー良かったぁ。じゃあ、一時間後に集合ねっ!待ってるからっ』
「……う、うん」
返事を聞くと天音は鼻歌を歌いながら電話を切った。
「……ふぅ、や、やべえええええええええええええええええええっ」
そして俺は、こう叫ぶのだった。
────────────────────
「ま、間に合ったぁ。よがっだ、づがれだ」
で、デートの前なのに、疲れたぁ。
俺が近くのベンチに腰かけると、俺に気づいたのか天音がとてとてと小動物みたいにかけよってきた。
もちろん、『氷姫』とは程遠く、とても、かわいらしい。
目は笑っていないような気がするが………き、気のせいだろう。
「あーおーいーくーん?どうしたのかなあ?そんな憂鬱そうな顔して……?し、か、も!一秒遅刻だよ。約束は守らないといけないよね?私は葵君に電話をかけた一時間前からずぅーーーーーーっとっ、待ってたのに」
さ、さすがに早くないか?こんな寒い中、ずっと?風邪引くぞ………。
「え?今さすがに早くないか?って思った?ひ、ひどい、ひどいよっ。私、私はっ………あなた、葵君と、一分一秒でも長くいたいと思って、思ってぇ」
そう必死に叫ぶ天音の目には涙が浮かんでいて、天音自身も少し、うつむいていた。
「私、私だって……う、葵君のこと、束縛はしたく、ないよ。で、でも、私、私自身が」
────穢れてるから。
そう告げた天音の表情は、泣き笑いのような、よくわからないような表情をしていて、少し、闇を感じられた。
そんな天音に、天音に俺は───────幸せな、嘘をついた。
「………天音、ごめん。俺は『試して』たんだ。天音の愛は本物なのか……」
「………」
苦しい……。でも、俺は天音が幸せになってくれれば、そう思いながら俺は幸せな嘘を続けた。
「俺は、『愛』が怖いんだ。だから、どうしても試してしまう。こんな俺を、愛してくれるだろうか……?」
嘘と悟られないように俺は、なるべく顔を背けながら、でも最後にしっかり天音の目を見ながら気持ちを告げた。
ばれないように、うまく嘘と事実を混ぜながら……。
すると天音は信じてくれたのか、ポタポタと涙を流しながら謝ってきた。
「あ、え?や、ご、ごめ、ごめんなさいっ。わ、わた、私……一人で、空回り、しちゃって………」
そんな天音を、俺は優しく抱きしめた。
(身長が足りなくて結構ギリギリだった)
「仕方ないよ。誰にだって間違うことはあるんだ。……誰にだって、ね?」
「……そろそろ、行こうか?天音。周りから変な目で見られてる」
周りを見渡すと、いろんな人がちらちらとこちらを見ていた。
俺が苦笑すると天音は静かにうなずいて、先に歩き出した。そして、俺に手を差し出して………
「行こうか?葵君……」
と笑いかけてくれた。
…………………………痛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます