第14話 俺もそのうちの一人になったよ!
ドライヤーで陽翔の艶々した黒髪をかわかしながら、続きを見ている。何度も何度も見返した映像に悔しくて唇を噛んだ。
すると、僕にいいように髪を乾かされていた陽翔が、手元にあるリモコンでライブ配信を止めて、メニューを開いてミュージックジャンルを選び、何かを探し始めた。
「急に止めるなよ?」
「あっ、見てたんだっけ? 違うの見たくってさ。如月のあの曲ある?」
「えっ? 僕の?」
「今日、歌ったヤツ。CMの曲だよな? 確か化粧品の。如月のだって知らなかったけど、最近、よく耳にしてたなって」
「あぁ、あれか。ちょっと待って」
リモコンを渡してもらい、お気に入りから選択しようとした。「そこにあんのかよ!」とツッコまれながら、再生ボタンを押すとリモコンを取り上げられた。リピートを押したようで、MVが始まり画面いっぱいの僕と目が合った。
……さすがに、誰かがいて僕を見つめているのは恥ずかしい。
「――風呂行ってくる」
「んー、俺、これ見とく」
そう言って、大画面の中の僕をジッと見つめる陽翔。その横に、ミネラルウォーターだけ置いて部屋を出た。
風呂に浸かりながら、大きなため息をつく。
……今日は、いろいろあったなぁ。グラビアから始まり……あぁ、あの小生意気な天使ちゃんとバトッたのは今日だっけ? 転校生の葉月くんにぶつかり、アイツらに宣戦布告。写真拡散に……今日会ったばかりのヤツを家に泊めるとか。
何やってんだか、頭、追いつかない……。
ブクブクと顔の半分まで湯に浸かり、頭の中を空っぽにする。疲れが出てきたのか、眠くなってきた。
寝そう……。
早めに風呂から上がり、そのまま顔を整える。油物を食べた後なので入念に……。
髪を乾かし、ホクホクと部屋に戻れば、陽翔は、さっきのをまだ見続けていた。
「飽きない?」
ミネラルウォーターのペットボトルをガラス机に置くと、戻ったのか? と陽翔はこちらをチラリと見て、すぐにテレビへと視線を戻す。
「んー、さすがに飽きてきた。今30周目だし」
「えっ? そんなに?」
「如月、風呂、なげぇーって」
「これでも急いで出てきたんだけど……」
「……俺、そんなに長く風呂に入るヤツ、初めてだわ」
「そ、そっか。ごめんね。退屈だったよね?」
陽翔は首を横に振り、「全然」と笑った。どうして? と聞く前に、陽翔の方から話し始めた。
「俺、ずっと、こればっか見てただけどさ。如月、すげぇーなっ! ダンスも上手いし、歌も上手い!」
絶賛したあと、一度画面の方を見て、声を潜め「顔もいい」と呟いた。
「ほめても何もないよ? これが今まで1番いい順位にいるんだから」
「122位だっけ? こんなに上手いのにな。まぁ、順位がつくってことは……ファンはいるってことだろ? 俺もそのうちの一人になったよ!」
にぃっと笑う陽翔に「ありがとう」というと、ただ、笑うだけだった。
陽翔に褒められたことが思った以上に嬉しくて、口元がニヨニヨとしてしまう。
「明日も早いから、もう、寝よう!」
「早くない? まだ、12時前だけど?」
「もう、12時前だよ。今日、撮影があって早かったんだ」
「あぁ、なるほど。じゃあ、眠いか。それに今日はいろいろあったもんな」
コクンと頷くと、当事者である陽翔は他人事のように「大変だったな!」と笑うので、「葉月くんもじゃない?」と返した。
考えるようなそぶりをしてから、自分が何故、ここにいるのか思い至ったようだった。
「確かに! 俺もだ」
忘れていたようで、呆れる。僕も意識していないと、すぐに今日の出来事は頭から飛んでいくので、陽翔には何も言えなかった。
「如月とは、マジで、何年も友達やってるみたいで、特別感? いることが当たり前? みたいな感じなんだよな。こうして、部屋に上がり込んで、テレビつけてるのとか、幼馴染ぽくない?」
「確かに! 葉月くんとは、あんまり身構えずにいられるような気がする」
「だろ? 不思議だよな。今朝、あんなに険悪だったのにさ。あぁ、それから……湊って、呼んでもいい? 俺も陽翔って、呼んでくれていいから」
陽翔の提案には、少し戸惑った。距離感がおかしくなっているのは感じでいたけど、気軽に名を呼んでもいいのだろうか? と。
「……いいよ! 湊って呼んで。僕は……葉月……くん、で」
「いいのに。じゃあ……」
僕が名を呼ばないことに、少し残念そうにしていたはずなのに、すぐに提案が飛んできた。
「ヒナって呼んで。はいっ、今から!」
「えっ? い、いきなり? えっ?」
「湊がいいなら、葉月くんでもいいけどさ……幼馴染っぽくさ?」
「……わかった、ヒナ。これから、よろしくお願いします!」
「こっちこそ、明日からの学校生活……楽しくなるようによろしく!」
それから、客間に案内する。いつでも使えるようにしてある客間に一緒に入って説明をしていて、肝心の制服を出していないことに気づいた。慌てて自室に戻り、客間に制服を持っていけば、陽翔はカーテンの向こうにいるようだった。
「どうかした?」
「んー、俺んちも高い場所にあるんだけどさ……少し離れただけで、違うんだな?って思ってさ」
「ここを選んだ理由は、セキュリティーの他だったら、この景色に尽きるかな? いろいろな条件も合うんだけど、それ以上に。制服置いておくから!」
ベッドの上にクリーニングされた制服を置いて、「おやすみ」と言って客間から出る。
そのあとは、自室のベッドに倒れこみ、今日の反省会をせず、スマホのアラームが爆音で鳴る朝まで、死んだように眠った。
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