運命の・で・あ・い!?

第3話 邪魔

 朝日と共に撮影があり、まだ、星が瞬いているにも関わらず、マンションに迎えにきた小園のクルマに乗り込む。


「珍しいな? 湊が助手席に座るなんて」


 今朝の撮影の準備もあり、昨日は早く帰ってきたが、眠いことには変わりない。大欠伸をしたあと、運転する小園の話し相手になると意気込んで乗り込んだ。案の定、そのまま眠ってしまい、現地につく20分前に起こされた。


「悪いっ、寝てたわ……」

「いいよ。もう少ししたら現場だから。整えておいてくれ」


 わかったと、しわくちゃだった制服を気持ち伸ばしてみる。撮影後は学校へ向かうため、制服を着てきた。現場につけは、着替えるのだから、これくらいは許されるだろう。現場につき、早速撮影の準備だ。

 CDは売れなくても、雑誌にグラビアが載れば、この顔のおかげで発売部数を上げる。そこにCDの宣伝を入れてもらえるならと、早朝でも深夜でも雑誌の撮影に参加していた。今回は、カメラマンからのオーダーで、朝日をバックに写真を撮りたいらしい。


「こんな早朝なのに、湊くんはお肌ツルツルね?」

「そうですか? メイクの真希さんにそんなこと言われると、僕嬉しいな」


 薄化粧を施してくれるメークアップアーティストの真希へ鏡越しに微笑んだ。「生意気ね?」とワックスを塗った手で、頭をぐしゃぐしゃとしてくる。


「わっ、待って待って!」

「まーちませーん!」


 クスクス笑いながら、髪を整えていく。最初にぐしゃぐしゃにした方が、整えやすいらしく、ものの数分で、用意された仮設のメイク室から出た。


 春とはいえ、標高も高いし……寒すぎる。


 震えながら待っていると、一人の男の子が近づいてきた。容姿は天使のようで、まだ幼さを残す少年だった。最近、雑誌でよく見るようになった期待の新人だろう。


「今日は、一人じゃないんだ?」

「あぁ、向こうがどうしてもってな」


 にこやかにしているが、どこか見下しているような目に、思わず笑いたくなった。その様子が、まるで昔の自分を見ている陽だったから。


「あの子も候補だから」


 小園に耳打ちされたとき、何のことかわからず見返すと困った顔をする。昨日の今日ですっかり忘れていたが、どうやら僕の相棒候補らしい。


「あの子もなんだ? 撮影してみて、相性良ければって話ね?」

「そういうこと。湊はCDの売上はあまり芳しくないけど、雑誌では人気はあるからね」

「天使の踏み台にされねぇよう頑張ります!」


「いつもの!」というと、後ろを向き小園は背中を叩いてくれる。気合十分、にこやかに、完成されたアイドルは、撮影の輪の中に入って行く。


「おはようございます! 朝早くから、よろしくお願いします!」


 カメラマンや雑誌の担当に挨拶をして回る。地味な挨拶こそが大事だと、声をかけていけば、あまりよく思っていないスタッフにも変に絡まれずに仕事ができる。最近では、当たり前のようにできてきたが、ちょうど、あの天使の年頃のころは出来なかった。


「おはようございます! 今日はよろしくね!」

「あぁ、はい」


 明らかに邪魔者でも見るようなめんどくさそうな雰囲気で僕を見てきた。世の中には、相入れない人物がいる。天使ちゃんは、まさにそれだった。


 ……昔は僕もあぁだったよな。こんな朝早くから連れ出しやがって! って、思ってた。それも、僕みたいなやつと一緒とか最悪まで思ってたな。


 天使ちゃんの態度を見ながら苦笑いをした。今までの僕を見ているようで、若干、心が痛い。


「撮影、はいりまーす!」


 スタッフの声に朝日がバックに当たるよう場所取りをする。天使も、撮影のために近くへやって来た。案内役のスタッフが離れ、モデルの二人だけになったとき、にこやかだった天使ちゃんが豹変する。


「先輩さ?」


 声の低さに驚いてそちらを見れば、天使どころか悪魔の笑顔で嗤う。驚いたような表情を作りつつ、内心、僕も天使と同じように嗤った。


「売れないアイドルなんて、もうやめたら? 俺の方が絶対売れるから」


 ……こんのがっきゃ……、大人しく聞いていたら。


 イライラとしたものが表情にでていたのだろう。勝ち誇ったように嗤う天使が憎くなる。


 僕をそんな風に言っててもいいのか? 売れなくてもアイドル。場数と度胸だけは、天使ちゃんの比じゃないぞ?


「そろそろですから、準備を!」


 聞こえてきた撮影スタッフの声に一瞬で撮影用の表情に変える。優しい表情は抑え、少し大人びた雰囲気を出せば、天使の方がたじろいだ。


「僕もね、売れなくてもアイドルなわけ。そんな煽んなよ? 後輩」


 朝日がジリジリと登り始める。背の低い天使を逃げ出さないように後ろから抱きしめ、反撃とばかりにスルッと顎に手をかける。すでにシャッター音は鳴り始めているので、振り払うことはできない。見開かれた目を見て、ふっと意地悪に嗤った。朝日が昇った瞬間には、呆気にとられ、固まったままの天使にキスをする。


 ……初めてとか?


「ごっそーさん!」と笑いかけ、撮影はつつがなく終わった。僕の心の平穏以外はと続くのだが、天使には完膚なきまで力の差を見せつけてやったおかげか、撮影が終わったにもかかわらず、放心している。


 スタッフに声をかけられた後、わなわなと怒りで震えている天使がおかしくて仕方がなかった。

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