第2話 もの好きな妖精さん

 元の小さな姿に戻ったボクは、急いでその場をあとにした。あの変な臭いの正体がわからなくてよかったよ。想像したくもない。

 とにかく、今日は早く帰って寝よう。起きた頃にはあの場所のことなんか忘れているはずさ。きっと……。

 ……あれ?おかしいぞ……。さっきから同じ場所を歩いている気がする。さっきも見た光景だぞ?

「やっと気づいた?たくましいトカゲさん」

 どこからか声が聞こえた。

「だ、誰だ!?」

 次の瞬間、目の前に小さな妖精が現れた。大きさは今のボクと同じくらい。

「私は森の精霊よ。よろしくお願いしますね」

 森の精霊?悪いやつではなさそうだけど、ボクに何の用なんだろう?

「先程の戦い見てましたよ。とても強いのですね」

「まぁ、それなりだけど」

 正直言って、あんな弱いやつに勝ったところで何の自慢にもならないけどね。

「ところで、ボクに何か用ですか?」

 ずっと思ってたことを聞いてみた。

 彼女はクスリと笑って、

「私はあなたに惚れてしまったのですわ」

 こう言った。

「あなたのTF、私の性癖にドンピシャなのです。か弱そうに見える小さな身体に秘められたパワー、TFが進むごとにあらわになる筋肉、完了後の屈強な筋肉。まさに理想の男性像なのです」

 興奮気味で語る彼女の瞳がだんだん輝いているように見える……。

「そこで、あなたに私の力を授けましょう」

 妖精はそう言うと目を閉じ、何かに集中しはじめた。

 すると、ボクの身体に変化が起き始めた。勝手にTFが発動し、マッチョトカゲ獣人になっていく。しかも、いつもより激しいTFだ!

「うおぉ!?ぐぐぐぐっ!!」

 ムキムキムキムキ……!!

 ボクの身体はどんどん筋肉質になっていき、腕は丸太のように太く、胸板は鼓動する度にパンプアップしていく!

 自分の身体を見下ろしてみると、全身が筋肉でバキバキに割れていて、腕の血管もくっきり浮き出ている。

「素晴らしいわ!」

 そう言いながら嬉しそうな表情をする妖精さん。

 これが自分……、なんて立派な身体なんだ!今ならどんな相手にだって勝てる気がしてきたぞ!

「では、早速あなたの力を見せてもらいましょう」

 妖精さんがそう言うと、突然目の前にバーベルが現れた。細長い棒の両端に、巨大な黒い鉄の塊がくっついていた。

「それは100トンの重さのバーベルよ。今のあなたなら持ち上げられるわ」

「わかったよ」

 そう答えるとボクはバーベルを掴んだ。

「ふんっ!」

 ボゴォォ!!

 ボクがバーベルを持ち上げようと力を籠めた途端、さらに腕の筋肉が破裂しそうなほど膨れ上がった。心臓の鼓動に合わせて他の筋肉も大きくなっていく。

「うおおぉおおお!!」

 雄叫びをあげつつも、なんとか頭の上までバーベルを持ち上げた。

「すごい、あなたの筋肉は一生見ていられるわ」

「あははは……」

 褒められて悪い気はしないが照れる。それからはしばらく妖精さんの能力の説明を受けた。

 まず、この子は森羅万象の力を使えるようだ。そしてボクの肉体の変化もこの子の力でやってくれているということなのだ。

 ボクの元々のTF能力も相まって、強靭な筋肉を手に入れたというわけだ。

「ありがとうね。おかげで助かったよ」

 ボクが感謝の言葉を伝えると妖精さんは少し恥ずかしげな様子になった。

「いいのよ。私の方こそ素敵なTFを見せてもらって嬉しい限りよ」

「それじゃ、そろそろ帰るよ」ボクは帰ろうとすると、彼女に止められる。

「待ってください。まだお礼をしていません。これを持っていってください」

 彼女はポケットから瓶のようなものを取り出して渡してきた。

「また会える日を待っています」笑顔で手を振っている。

 ボクは手を振り返し、家に帰った。

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