第6話 新たな教室と担任とクラスメイト
13畳の教室。その広い空間で特に日が当たる窓側の席に悟は居た。今入学式が終わり、校長のありがたーい話を聞いて悟は自分の席だと案内されたところに座り、やっと落ち着いていた。
今朝は緊張で胃の中のものをすべて解き放ちそうになっていた悟だが、この時間になってくるとさすがに緊張はなかった。
「紅月君......であってるよね?」
窓の外を眺め、ぼんやりとこれからの生活への創造を思い描いていると突然後ろから自らの名字を呼ぶ声が聞こえた。悟は自らの名前を呼ばれるのが久しぶりだったため戸惑った反応を見せてしまった。
「あ!ごめんねいきなり話しかけちゃって......紅月君ってこの辺の人じゃないよね?」
悟のその反応を見て声の主である少女は焦った様子でそう言った。
「悟でいいよ。そうだけど......やっぱりこの学園に入学した人はみんな顔見知りなのかな?よそ者は俺だけ?」
田舎社会の宿命である。学校の数は少なく、外に出るという選択肢も無いため高校まで全員が顔見知りであることもざらにあるそうだ。
「うーん......今のところは悟君だけかな......?知らない人と話すなんてなんか新鮮。あ!自己紹介が遅れた!あたしは
香と名乗った少女は眩しいくらいの笑顔を悟に向けてきた。
それからは質問の嵐だった。外の世界ってどういうところ?から始まり、悟の過去についても詮索された。
香の怒涛の質問に一定数答えると、やがて満足したような笑顔をこちらに向け
「悟、ありがとう!やっぱ外の世界の話っていいね!私生まれてから一回もこの村から出たことないからさー大きくなったら絶対この村から出るって決めてるんだ!」
と興奮を抑えきれない声色でそう宣言した。
だがそう宣言した少女の表情の裏側には少し悲しみの色がのぞいているように悟は感じた。
「静粛に」
その時、突然、荘厳な女性の声が新入生達の興奮冷めやらぬ雰囲気だった教室を一変させた。悟もその声の主を拝もうと教卓の方へ視線を向けた。
そこには身長は160㎝と少し低めだが威圧感漂う黒いスーツを身にまとったいかにもな感じの女性教師がこちらを見ていた。
その眼には一切の感情を感じられず、その場の生徒ではない何か別のものを見定めているような印象を受けた。
「君たちの担任の
一切感情のこもってない挨拶を聞かされ、生徒たちが唖然としている間に風斗はプリントを配りだした。何やら重要そうな書類の中に入ってたのは生徒の身辺調査の紙だった。
確実に重要なはずなのに、その紙本体の紙質は如何にも安っぽいコピー用紙に印刷されていて、折り目をつけるのも容易なくらい安っぽい仕上がりだった。それに対し悟は何とも言えない気分になった。
「では明日までに必ずそのプリントに記入してくること。それではこれにて今日は解散する。」
風斗はそれだけ言い残すと何か焦っているのかと思うようなスピードで素早く教室から立ち去った。
新たな担任が思い描いていた教師像との相違に困惑していた悟に香が話しかけてきた。
「もう解散だってさ悟。ねえ良かったら今日一緒に帰らない?」
悟にとっては思いがけない提案だった。教師は期待外れだったがこっちは期待以上だった。学園生活とは無縁だった悟は施設で一般的な学生が送る青春生活を思い描いていた。
まあ大体が外から来た文献からの情報だったため。多少現実より美化されているであろうことは悟自身も承知の上だったが、まさか初日で同じクラスの女の子(しかも可愛い)と一緒に帰ることができるとは、悟にとって久しぶりの幸運であった。
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