第4話 新たなる世界

 あの夢を見た日から一か月後、まるで90年代からそのまま引っ張ってきたような年季の入った汽車に乗り込んだ悟は新たなる生活に胸を馳せていた。


 これから始まる希望に満ち溢れた生活と以前の生き地獄だった生活との天地の差が

 より一層悟の心を躍らせる要因だった。


 悟が自分自身のトレードマークとして着ている白いパーカーは胸の部分のロゴがいつもより心なしか輝いて見え、ジーパンを固定しているベルトもいつもより数段しまっていた。


 蓮火町は都市から隔離されるかのように山に囲まれており、都市部との接続もよくないため、悟の住んでいた地域からは月に一度しか、しかも時代に取り残された汽車しか通ってないという不人気で不遇な町である。


 しかし、今はその不遇っぷりがかえって非現実感を生み出し、悟の気分を高揚させた。


 車内に乗り込むと木材たちの香ばしい香りが悟を歓迎した。この香りからもこの汽車の歴史の深さが容易に想像できる。


 色褪いろあせたシートに座って、窓の外をのぞき込むといつもの変わらない街並み。このいかにもタイムスリップして来たような汽車から普段の街並みをのぞき込むギャップが何とも面白おかしく感じさせた。


 しばらく異世界の雰囲気に浸っていると汽車が重苦しい音を立てて走り出した。


 移りゆく風景を何気なく眺めながら悟はこれまでの出来事を思い出す。


 結局危なげなく蓮火学園に合格した悟は無事施設を卒業し、現在に至る。

 といっても施設で友人がいない彼にとっては勉強ぐらいしかやることがないので当然と言えば当然なのだが。


 ふと外を見ると都市部とは一変して眩しい色をした田園風景が広がっていた。恐らく今までの疲れが出たのか気づかないうちに寝てしまっていたのだろう。そのためか悟にとっては一瞬の間に異世界に連れてこられたような感じがした。


 特に何の変哲もない田園風景だが悟にとっては物語の中でしか見たことがないのでその風景でさえ特別なものに感じた。


 乗車した時から薄々勘づいていたが、この汽車には自分以外乗っていないようだ。汽車の重苦しい音だけがこだまするこの空間には音があるのに静かという何とも奇妙な静寂が続いていた。


 ふと悟は異変に気付いた。


 山々に囲まれた田園風景......その空間にはふさわしくないがそこに存在していた。


 例えるならこの町に拒絶されているようなが......


 外観は真っ白い長方形を乱雑に組み合わせたかのような建物。そして特徴的なのは窓が一切ない事。


 そんな都市部にも存在しないような奇妙な建物がそこに存在していた。いかにも田舎の山奥の村と言った場所に......


 悟はそんな不可解な建物が存在していることに不快感を覚えた。


 そんな悟を一つのアナウンスが現実に引き戻した。


「次は~終点~蓮火町~蓮火町~」


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