旅立ちと出会い編
第3話 蓮火町へ......
「ふむふむ......竹馬ヶ丘は
あの夢から覚めた
カーテンの隙間からは紅色の光がのぞき、時間の経過を悟にに無理やりにでも察せさせる。
記憶を失ってから8年......当時8歳だった悟も今年で16歳。ちょうど高校1年生となる。
身寄りのない悟は児童養護施設に預けられ、そこで過ごした。
だが、悟には空白の八年間の存在が常に心の中にあり、施設での生活には全くと言っていいほどなじめなかった。
その内、記憶がないという悟を気味悪く思う子が現れ、悟は陰湿ないじめを受け続けることになった。
今も悟の体には、子供たちの彼に対する憎悪の印が無数に刻み込まれている。
そんな悟も今年で施設を卒業することになった。理由は単純にいじめに耐えられなくなったからだ。
最初は無視されるだけだったが、そのうち、暴言や暴力、いじめの内容は日に日にエスカレートしていった。
施設を卒業することになった彼は移住先と入学先を探していた。そして自分の記憶の手掛かりも......
「
施設長と呼ばれているだらしなくひげと髪を伸ばし切った小太りの男性に悟が蓮火町へ行きたい旨を話すと開口一番そんなことを言われた。
「羽島さんも知っているでしょう。俺が記憶の手掛かりを探しているって。」
羽島と呼ばれた小太りの男は怪訝そうな顔をする。
「でも夢の内容で移住先を決めるっていうのは早計すぎないかい?もっと真剣に考えても......」
その言葉を聞いた悟は羽島の目の前にある豪華な装飾の施された、いかにも高そうな机を殴りつけた。
「夢は無意識の象徴と言われています!第一俺には記憶がない!判断材料はそれしかないんです!お願いします!俺にどうか蓮火学園への受験許可を......」
沈黙が広大な空間に広がる。豪勢な置時計の刻む音だけが二人だけの空間にこだましていたが、やがて悟とにらみ合っていた羽島が諦めたように肩をすくめた
「分かった。許可しよう。もし蓮火学園に受からなかったら都市部の私立高校に行ってもらうぞ。これは嫌がらせのためではない、お前のためを思ってのことだ。いつまでも昔の記憶にこだわらず、そろそろ新しい人生を始めたらどうだね?」
「ありがとうございます。この機会を無駄にはしません。」
羽島の最後の問いにはあえて答えず。悟はお辞儀して去った。
説得を聞き入れてもらえて良かった。もし聞き入れてもらえなかったら俺をいじめてきたいじめっ子達を全員病院送りにして強制的にこの施設から抜け出される形で蓮火町へ行こうという物騒な計画を実行するところだった。という風に安堵したのもつかの間、いきなり歩いてる最中に液体が悟を襲った。
悟が着用しているジーパンやお気に入りの白いパーカーまで全てが黒色に染まった。恐らく悟を襲った液体の正体は墨汁だろう。
ふと襲ってきた方向を見ると、先ほどまで墨汁が入ってたであろうバケツの中身をこちらに向けて小憎らしい笑みを浮かべた数人の集団が目に入った。
「記憶も身寄りもいない悟ちゃんは見た目もお先も真っ暗~♪」
その場で考えたであろうめちゃくちゃなリズムの鼻歌を口ずさんでその集団たちはそそくさとその場から立ち去った。
「あと数か月この地獄に耐えきらないといけないのか......」
悟は溜息を吐き天を仰いだ。
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