第2話 一筋の手掛かり
「はあ......!はあ......!」
俺はわき腹から多量の血を出しながら倒れていた。
目の前には形容しがたい何かが自分の視界の大半を覆うほど無数に存在していた。仮に表すならば影というべきその存在はまるでこれから死にゆく自分を観察するように身をかがめてこちらを向いている。
たすけて
言おうとしたが声が出ない。代わりに出るのは赤黒い塊だけ。舌が抜かれていることに気付くのはそう時間を要さなかった。かろうじて動かせるのは瞳だけであることを悟った。
意識が薄れてきたとき影たちの合間を縫って光が飛び出した。
光の正体は白いワンピースを着た少女であった。黒い影との相乗効果により光に見えただけであった。
少女は穏やかな笑みをこちらに向けていた。しかしその裏にはこちらに対する底が見えない殺意が存在していることはすぐに分かった。
殺意が存在していることが分かると少女の笑みは自分が死ぬことに対しての安堵であることは想像に難くない。
なんでこんなことを......?
声が出せないので返事が返ってこないであろうことを承知で目で問いかけてみる。
「うふふ。どうして......?って目をしてる。なんで分からないの?」
少女が年にそぐわない妖艶な笑みを浮かべたのが分かった。しかし瞳はまるで軽蔑するようなまなざしをこちらに向けている。
「あなたが全部悪いのよ。全部あなたが......!あなたが私のもとから離れ、薄汚い鼠共とつるんで私の邪魔ばかりするんだから......!私はあなたのためを思ってやってるのに......!」
少女の声は明らかに怒気を含んでいた。
「ねえ?約束したよね?一緒に
少女が俺の血みどろの肩を血で汚れることを気にも留めずに掴む。
「私ずっと頑張ってたんだよ?約束をちゃんと守るために......それなのに......それなのにあなたは!」
突如少女の後ろで待機していた黒い影が俺に襲い掛かった。顔を狙われ俺は人生で経験することがないであろう目をつぶされる経験を味わった。
光を失った世界で少女は語りかける。
「だからね これは教育なの。少し離れ離れになっちゃうのは寂しいけど......大丈夫。だって君はいい子になって戻ってくるんだから」
俺はほとんど意識がなくなっていた。消えゆく意識の中で俺の頭にあったのはたった一つだけだった。
竹馬ヶ丘......!それが俺の記憶の唯一の手掛かりだ!
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