最終章

第1話 大会を目指して。

帝国との戦争が完全に終わってから約1月(ゲーム内時間)後。

俺は久しぶりに店番をしていた。


ヒヨと帝国から帰ると頼まれていた書状をアインリクとリオールに届けた後、大会に向け訓練場に籠っていたんだが、メルナは上忍になるための任務があり、イチは生産忍者になるために生産スキルを鍛えているので、今日は俺が店番をする事にしたのだ。



昼飯を食い終わった後カウンターの中に座り、煙草を吸いながらプレイヤーが発行している新聞の一面に、ゼルメアで異界人専用闘技大会が開かれる事が書かれている記事を読んでいる。


ゼロが総合掲示板にも大会の事を書き込んで約1週間(ゲーム内時間)が経つのだが、既にゼルメアにあっちこっちからプレイヤーが集まりつつある中、大会の事をプレイヤーから聞いた住人が観戦するため、かなり他所から集まって来ているのだ。


街は祭り気分で屋台等を出しているプレイヤーや住人もおり、かなりの賑わいを見せている。

闘技場は先週(ゲーム内時間)完成し、今は大会の準備中との事。

どれだけ参加するのか今のところまだ分かっていない。


「ん?」


新聞の隅に帝国のアインリクとリオールが、大会を観戦しに来る事が書かれているのを発見。


しかも、テアード王国の新女王のエミュリシアまで来ると書かれていた。

あれからテアード王国は開国し、ゼルメアとの国交も結び、今ではヒヨとエミュリシアは結構仲が良いとゼロが言っていた。


リュバッセンが宰相を務めているそうだが、最初はコロンを誘ったらしい、しかし、自分は異界人だからとコロンが断り、今までどおりエミュリシアの友達という事で治まったとの事。


その関係でコロンもゼルメアに来ているぞ。

街中で見かけた事がある。

隣国が落ち着いたのでゼルメアにも平和が訪れたようで、闘技大会を開く余裕が出たのだろう。



そんな感じでのんびり店番をしていると、店の扉が開かれ客が入って来た。


「いらっしゃい~」


新聞を読みながらそう言うと。


「そんなんで店は大丈夫ですか?」


その言葉に目を向けるとそこには。


「おうタカジ、どうした?」

「久しぶり~って、勿論大会に出るために決まってんじゃん」

「訓練の方は順調かな?」


バルデン連邦でデスペナを受けてから、火の里で鍛えていたらしいが。

するとタカジは胸を張って。


「ふっ、やっと俺も忍び頭になれたよ」

「そりゃ良かった。で? 職業は何で出るんだ?」

「そこなんだよねぇ。名前を変えて忍者姿で出ようかと思ってるんだけど、どう思う?」

「ん~……バレる可能性が高いな」

「やっぱり?」


俺は頷く。


この大会は多くのプレイヤーと住人が見る事になるからね。

中には気付く者も居るかもしれない。


「なので、最初から別の職業で出た方が無難だな」

「やっぱそうなるかぁ。じゃあ『ハンター』で出ようかな、普段はハンターだし」

「そうしろ、タカジがバレたら関わっている俺達まで危ないから」

「そうか……よし、ハンターで出る事にするよ」

「おう、じゃあ、何か買っていくか?」

「店内を見させてもらうよ」

「ゆっくり見てくれ、おすすめはこれだな」


そう言ってカウンターの下から煙草を1箱取り出す。


「あっ、俺煙草吸わないから遠慮する」

「そうか、じゃあ後は……」


他のおすすめ商品を紹介しているとゼロからボイチャが掛かって来た。


「どうした?」

『おう、明日から大会の受付が始まるからって事を伝えたくてな』

「チャットで良いだろ、態々ボイチャって事は何かあるんだろ?」

『流石、実はな、優勝者にSランクの武器を賞品にしたいんだが、作れるか?』

「そりゃ作れるが、優勝する奴がどんな武器を使うか分からんだろ?」

『だから優勝した後に作ってもらいたいんだ。勿論金は国が出す』


受注生産って形ね。

俺は了承する代わりに、大会に申し込んどいてもらう事にする。


『当然既に登録してあるぞ』

「早いな」


大会は2週間後から参加人数に合わせ、数日に亘って開かれる事になるとの事。

参加人数は今のところ既に、200人を超えているらしい。


『プレイヤー最強は誰になるのか、俺が優勝するぜ?』

「はは、剣神だっけ? になったからと言って、優勝出来るとは限らないからな?」

『剣神になるのは、滅茶苦茶大変だったんだぞ?』

「そりゃそうだろうな」


ゼロはつい先日、剣士の最高峰である、剣神という職業に転職したのだ。

内容は詳しく教えてくれなかったが、Cランクより低い剣でSクラスの魔物を倒すみたいな事を言ってたね。


俺は最低ランクの武器で倒す事を目標にしているが、ゼロでも倒すのに三日三晩掛かったとの事。



ゼロが剣神になる少し前には、ヒヨが『大賢者』になり、アイドールは『原初の魔女』になったそうだ。

他の皆も転職したらしい。


アヤは『盗賊王』で、トリナマが『騎士王』という、どちらも各系統では最高峰の職業らしい。


螺旋は『武神』となり、ミルクは『拳神』で、タピオカは『召喚師・神』となった。


エノは『テイマー・極』となっている。

クライは『ハンター・竜』で彼女のリナさんは『精霊師・極』という職業だ。


みんな各職業の最高峰まで到達しているので、誰が優勝してもおかしくはないが、俺が優勝する気満々である。


そのためにここ約1月程は、技を磨いてたからな。

全力でやってやる。

まあ、知らない強いプレイヤーが他にも居るだろうけど、それでも勝って最強になるぞ!!



『じゃあ賞品の件は頼む、他にもやる事があるから切るぞ』

「おう、大会を楽しみにしてる」

『ああ!』


そう言ってボイチャを終了すると商品棚を見ていたタカジがこちらを見て。


「今のは剣聖ゼロさんかな?」

「ああ、先日剣神になったらしいぞ」

「そんな職業があるんだなぁ……優勝は難しいか」

「戦い方で優勝する可能性は十分ある」

「かな? ……これ下さい」


栄養食を買ってくれたタカジにアドバイス。


「バレなけりゃ忍術を使っても問題無いぞ」


と言いながらお釣りを渡す。


「バレなけりゃ……難しそう」


そう言うタカジに宿は取ったのか聞くと、どこも一杯で取れなかったとの事。

ならうちに泊まれば良いと提案し、空いてる客室を提供した。



こんな感じでのんびり訓練をしながら大会を迎えようとしていたがその前に、1つの依頼が舞い込んで来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る