第2話 意外な人物の依頼。
大会が終わるまで一緒に暮らす事になったタカジをイチにも紹介し、大会に向けて訓練を続ける日々。
訓練場でタカジも一緒に訓練をし、たまに俺が教えたりしながら過ごしていると、大会が始まるまで後1週間という日の朝。
今日も店を開けて俺が店番をしていると開店して少し経った頃、最初のお客さんがやって来た。
黒い外套を纏い、フードを被っているが女の客だと分かる。
「いらっしゃいませ~」
俺は新聞を見ながらそう言うと空間感知で客が、一直線にカウンターへ来る事が分かり、新聞を閉じてカウンター前に来た客を見て聞く。
「何をお探しで?」
すると女はフードを取り、真剣な表情をしながら。
「店主が欲しい物を1つ頂けませんか?」
「私が欲しい物は、あなたの探している物ですよ」
「……では、この世の全てをあなたに差し上げます」
「それは有難い……依頼内容は?」
俺はそこで、不動金剛術で店の扉が開かないようにし、煙草に火を点け煙を吐き出す。
そう、今の一連のやり取りは、俺が依頼を受ける時の合言葉だ。
全て合っているので、誰かに聞いたのだろう。
「……私の依頼は」
俺はそこで手を出して言葉を止めると告げる。
「その前に、外に待たせてる人は関係あるのかな? あるなら先に入れてくれるか?」
「お気づきでしたか、直ぐに」
そう言い振り返ると扉に向かって歩いて行ったので不動金剛術を解除し、女が扉を開けて外の者を招き入れるとまた開かないようにする。
外で待たせているのは依頼を受ける際、必ず1人で来て合言葉を言えないと受けない事にしているからだ。
ちなみに女の客は茶髪の綺麗な女性で人族だ。
そして今入って来た客もどうやら女のようで、同じように黒い外套を纏いフードを被っているが、茶髪の女より小さい。
身長がね。
2人がカウンターの前に来ると茶髪の女が小さい女の横に付き添うように立ち、口を開く。
「私の依頼はこの……子の護衛です」
「護衛? 護衛ならギルドに依頼すればいいのでは? なぜ態々うちに?」
ギルドならちゃんと護衛依頼を受けてくれるぞ?
「それが……少々問題がありまして、ギルドに依頼は出来ません。そこでここの事をある方から聞いて、こうして参りました」
ギルドに依頼が出来ないって、ゲンスイのような人斬りとか?
んな訳ないか。
まあ、理由はどうでも良い、それより……。
「事情は分かった。君はそれを望んでいるのかな?」
未だにフードを取らない子に聞くと小さく頷く。
「なるほど……護衛と言ってたけど、報酬は期間が長くなればなるほど高いぞ?」
「いくらでも支払います」
まだお金とは決まってないけどね。
まあ、今回はお金で良いかな?
「報酬は成功報酬で良い。それより、相手は?」
「それがハッキリしておりません……とにかくこの子を襲う者から守って頂けませんか?」
相手が不明ねぇ……怪しい。
いや、ここに来る時点で事情があるのは分かるが、相手がハッキリしないのに護衛って……。
「何か狙われる事に心当たりは?」
首を横に振る2人の女。
何も無いと……これは厄介だな。
護衛は良いが、期間がハッキリしないのは難しいぞ。
もしくは相手を潰すまでとかなら良いけど相手も分からず、いつまで護衛すれば良いのかも分からない。
一応いつまでか聞くと安全になるまでとの事。
それが一番厄介だ。
俺は少し考えて提案をしてみる。
「護衛は分かったけど、身を隠す事は?」
「安全に隠れられる場所がありません」
しょんぼりする茶髪。
「安全に隠れられる場所があれば、隠れられるんだな?」
「はい」
茶髪も小さい子も頷く。
うむ、ならば……。
「隠れるのに丁度良い場所があるからそこに身を隠そう。そして君が隠れている間にこっちで相手を処理するので良いかな?」
「そのような場所があるのですか?」
「ああ、俺の仲間のアジトで匿う事にする」
そうです。
地下の村の事だ。
裏組織の連中しか居ないが、ギドから通達しとけば手を出さないだろう。
もし出せば地獄が待ってるからな。
「どうする? そういう形なら力になれるが?」
「……分かりました。お願いします」
そう言って2人が頭を下げるので俺は。
「じゃあ、話が纏まったところで、自己紹介といこうか、俺は侍のキジ丸、ここの店長をやってる者で、異界人だ」
「私は『レミア』と申します。この子は……エミアと申します」
『ニミア様とはバレないようにしないと』
と、心眼で本音が視えた。
ニミア?
って、確か第一皇女じゃね?
マジ?
何で皇女がこんな所に居るんだよ。
しかも護衛依頼とか……って、皇女を狙う者が居るって事だよな?
イブキの報告じゃ、第一皇女は何も無いただの皇女だったけど?
ってか、皇女を外で待たせてたのかよ。
とにかくこのまま隠して護衛は難しいので。
「俺に嘘は無駄だぞ」
「っ!? ……どういう事でしょうか?」
「エミアじゃないだろ?」
「……どうして」
「そういうスキルだ。で? 俺の口から言った方が良いか? それとも自分の口から言うか? 嘘を吐かれると護衛するにあたり、信頼関係が築けないんだが?」
そう言うとレミアが黙り込み、どう言おうか迷っているとニミアがフードを取り。
「私はオズオード帝国第一皇女のニミアと申します。騙すような形になってしまい申し訳ありません」
綺麗なお辞儀をするニミア。
「ニミア様!?」
「良いのですレミア。護衛を受けて下さる方に身分を隠していては、信頼関係は築けません」
しっかりしてるな。
でも皇女とはなぁ。
地下の村で大丈夫か?
中は大分綺麗になってるけど、周りが裏組織の人間ばかりだしねぇ。
とりあえず連れて行って確かめてもらうか。
無理ならうちの地下で我慢してもらおう。
「じゃあ、隠れる場所に案内するから奥に入って」
カウンターに入ってもらい、キッチンへ行くと「ハンゾウ」と呼び忍者の分身を俺の影から出す。
「っ!?」
「……あなたがハンゾウ殿ですか?」
レミアは驚いて固まっているがニミアはハンゾウを知っているようで、そう聞いてきた。
「うむ、確かにハンゾウと呼ばれているが?」
すると頭を下げるニミア。
「なんだ?」
「叔父を止めて頂きありがとうございました」
「拙者が殺した事を聞いたのか?」
「いえ、お爺様と父が話しているのを偶々聞きました」
「そうか……」
しんみりしそうなので。
「ハンゾウ、地下の村に頼む」
「承知」
そしてレミアとニミアを一緒に影に沈めると影渡りで地下の村にある、ギドの部屋に転移した。
影から出る前にギドの分身を執務机の席に出してから、俺達も影から出るとギドで。
「なんだキジ丸。いきなり、ハンゾウまで居るのか」
「久しぶりだな」
「悪いな、ちょっと匿ってほしい者が居るんだが、良いだろ?」
「……その2人か」
「ああ」
「あっ、は、初めましてレミアと申します」
「ニミアです」
「……良いだろう。キジ丸の頼みなら仕方ない」
「助かる。暫くここで匿ってくれ、で……こっちの子は第一皇女だから丁重にな?」
「キジ丸さん!?」
「こいつは信用出来る奴だから大丈夫だ」
「皇女か……他の者に手を出さないように言っておかないとな」
「ああ、じゃあ後は頼んだ」
「分かった」
俺はそう言うとハンゾウの分身と影に潜り、店に戻って店番の続きをするが、引き続きギドで相手をする事に。
一人三役もだいぶ慣れたな。
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