第26話 殴り込み?

その日の内にエミュリシアが明日、城へ殴り込みに向かう事が住民達の間に広まり、戦える者は自分も参加すると盛り上がっている事を、観光がてら街をぶらつき確認する。


夜になると俺は、忍者になり城へ潜入し、悪魔は居ないかの確認をした後、街の外でいつもの訓練をしてから土の中で眠りに入った。


ちなみに調べたけど、王都に悪魔は居なかったよ。



翌日、日が昇る少し前に目を覚まし、土の中から跳び出すとクリーンで綺麗にしてから朝食を食いながらチャットが届いていたので、確認する。


『来週帝国に行くんだけど、ハンゾウさん借りれるかな?』


ヒヨからだ。

条約を結ぶために帝国へ向かうヒヨの護衛を頼みたいそうだ。


『おは~、良いよ。報酬は10万Gで』


そう送って飯を食い終わり、一服していると返事が来た。


『おは~、報酬は了解! じゃあ来週、護衛よろしく!』

『ヒヨ以外には誰も行かないのか?』

『ゼロ君はクラスアップで空いてなくてアイちゃんは魔女でしょ? 護衛には向かないって事で、じゃあハンゾウさんにってなったの』

『トリナマやアヤは?』

『トリ君は城を守る仕事があるからね。アヤちゃんは依頼の報告に出てて今は居ないの』


……あぁ、取り返した刀を届けに行ったのかって、まだ帰ってないの?


『どこまで行ってんの?』

『仁の国らしいよ。元々はタルフィア王国だったらしいけど、そっちに移ったらしくて居なかったんだってさ』

『ヒヨの転移で送ってやればよかったのに』

『私は仁の国に行った事が無いから無理だよ』

『そうか、なら俺に言えばハンゾウに送らせたのに』

『送ってもらえるって知らなかったんじゃないの?』


……確かに知らないか。


その後、護衛の件は了解という事でチャットを終了し、さっそくリュバッセン達が待つ地下へ影渡りで向かう。



誰かの影に転移すると丁度、リュバッセンや他の若い者達、そしてプレイヤーであるコロンも地下の広い部屋に集まっており、それぞれが隣の者と話し合っていた。

俺は影の中で忍者になるとリュバッセンの影に移り、背後に姿を現す


「っ!?」


丁度リュバッセンと向き合う形で話していたコロンが俺を見てビクッとなり、身体を固める。


「どうしたコロン?」

「拙者を見て驚いたのだろう」

「っ!? ……驚いた。いつの間に?」

「先ほど着いた。ではさっそく城へ向かうぞ」


俺はそう言うと、コロンの隣に立つエミュリシアを見て容姿や声をイメージし変装術を発動。


アバターを登録せずとも変装は出来るが、また変装する事がある場合は、ちゃんと登録した方が便利である。


イメージだけだと声が違ったり、髪型が変わったりして違和感が出てしまうのだ。

しかし、エミュリシアになるのは今回だけなので、登録は必要無い。


俺が変装をすると部屋の中は静まり返り、驚いた表情をしてる者やワクワクしている者、興味津々な者といろいろ反応は分かれた。

エミュリシア本人は驚いている様子。


「これなら大丈夫でしょ?」


俺が腰に手を当てそう言うとコロンが。


「エミュリシアはそんな活発な感じじゃなくて、もっとお淑やかよ」


うむ、確かにコロンと話していた時は、声も小さく静かな感じだったな。


「分かりました。後はリュバッセンに付いて行きますね」

「私の事はさん付けでいつも呼んでます」


呼んでるところを見た事が無いんです。


俺はコロンやリュバッセンに他にも何かあるのか聞き、エミュリシアの歩き方や座り方等を説明されるが、すぐ終わるのである程度のところで終わり、さっそく城へ向かう事に。


「まあ、見た目と声は完全にエミュリシアだから問題は無いかな?」

「そうかな?」

「あっ、今のエミュリシアだ!! もう話し方や仕草を習得するとは、流石忍者だねぇ」


フッフッフッ、なめるなよ?

変装した時はなり切るのが大事なのだ。



その後、地下から出た俺達は、街中を堂々と歩き城へ向かう。

歩いていると住民達が。


「頑張れー!!」

「エミュリシア様!! 俺も一緒に戦います!!」

「この国を変えてくれー!!」

「エミュリシア様、お供します」


そんな風に声援を掛けられ、中には後ろに付き参加する者まで現れる。

そんな中には、住民に変装したメンバーがおり、徐々に集まりは大行列になっていく。


俺がエミュリシアで先頭を歩き、右にはリュバッセン、左にはコロンが歩いている。

メイン通りを進み、城門前が見えてくると門は閉まっており、大量の兵士が待ち構えていた。


「止まれぇ!! それ以上近付けば排除するぞ!!」


と、隊長らしき人物が言うので俺は、リュバッセンを見るとリュバッセンは頷き前に出て口を開く。


「我々は圧政に苦しむテアード王国に居る国民のために、愚王であるブリュスタルから玉座を奪いに来た!! もし邪魔をするなら容赦はせんぞ!!」


そう叫ぶと隊長らしき兵が驚いた表情をし、呟くように言う。


「っ!? 近衛の……」


そこで俺が前に出て告げる。


「私はテアード王国元第二王女のエミュリシアです。大切な国民に酷い仕打ちをするブリュスタルを許す事は出来ず、こうして参りました。道を空けて下さい」


するとリュバッセンが続けて口を開いた。


「エミュリシア様こそがこの国の女王陛下に相応しいお方!! ……お前達も分かっているだろう? ブリュスタルがどういう人物か……」


そう言うと最後に俺を見るので小さく頷く。

記憶を改ざんしてるんだろ? という目だけで聞いてきたのだ。


ブリュスタル以外の者は、全員奴が最悪な王である事は分かっているはず。

それでもこうして抵抗するのは、兵士としてのプライドなのか、それとも……。



隊長は黙り込み少し俯いて何も言えなくなると、門の前に居た兵士達は槍を地面に捨て始める。


「っ!? ……お前達」


隊長は力なく呟くように言うと目を瞑り、少しすると俺達の方を向きその場で全員が片膝を突き、頭を下げた。


「どうか……どうかこの国をお願いします。エミュリシア様」

「……分かりました。私達がこの国を変えます」

「では行きましょう。エミュリシア様」

「はい」

「開門しろ!!」


隊長が立ち上がりそう告げると他の兵士達も立ち上がり、門を開けると両サイドに並び、片膝を突き頭を下げる兵士達。


俺達はその中を歩いて城門を潜ると城へ続く道を進み、城へ入る大きな扉が見えてくるとその前には、騎士達と兵士が並んで待っていた。


また同じような事を言わないといけないのかそれとも、戦う事になるのか……。

そう思いながら10メートル程の所まで来ると、1人の騎士が前に出て告げる。


「エミュリシア様、我々もお供します」


そう言って頭を下げる騎士。

後ろに居る騎士や兵士達も頭を下げている。


おお、騎士は戦わないといけないかと思ってたけど、弄った記憶が効いてるのかな?



このままブリュスタルのところまで行こうか。

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