第23話 記憶の改ざん。

チンピラが地面に横たわる横で精神属性の印を作り、さっそく印を両手で結び発動。

すると男達の身体が一瞬微かに光る。



……これで成功してるのかな?

とりあえず起こすか。


回復属性の印を結び男達を治すと蹴って起こす。


「んぁ? ……あれ? 何でこんな所で寝てんだ俺?」

「……ん? 一緒に寝てた? 飲み過ぎたってか?」

「お前らさっさと起きて帰った方が良いっすよ?」


俺の言葉を聞いてこちらを振り向く男達。

ジッと俺を暫く見た後。


「……あぁ、すまねぇ兄貴」

「あっ、すいやせん兄貴!」

「良いからさっさと帰るっす」


そう言うと2人は頭を下げさっさと帰って行った。



うむ、記憶を弄る方法は大体分かったぞ。

過去をどれだけ弄れるかも試したが、どうやら上手くいったみたいだ。


奴らが成人になる前から俺の舎弟という記憶にしてみたけど、過去数十年の記憶まで弄れるんだな。


まあ、あいつらの魔力制御と精神耐性が低いお陰かもしれないけどね。

これなら仕込みは出来る。


フッフッフッフッ、これでイベントは上手くいくはず。

そして、国民1人1人に術を掛けて回るのは時間がかかり過ぎるが、俺にはサイゾウに教わった方法があるのだ。


デカい印を書いて発動させれば、一斉に同じ記憶を植え付ける事は出来るだろう。


という訳で、俺はさっそくその場で跳んで壁に張り付き、更に跳んで屋根に上ると、魔糸を出し煙突に張り付ける。

ここがスタートだ。


街全体を覆うように印を書かないといけないが、広すぎるので動き回らないと書けない。


マップを出して拡大すると、マップの上に印を書き込みそれに合わせて動く。

屋根の上を走り、時には壁を走り、高い建物の壁を登り屋上から飛び降りながらも魔糸を街全体に張り巡らせて数分後。


一番高い建物の屋根から街を見下ろし、印が完成した事を確認すると魔力を溜め、どのような記憶にするかをイメージする。



ブリュスタルが以前から王である事、そして圧政を強いてる王で、国民全てから嫌われている王という内容だ。


そして元第二王女のエミュリシアが、そんな愚王と密かに戦っているという事も。


印を発動させた瞬間、街を覆う程の巨大な印が上空に一瞬現れると、街全体が微かに光りすぐ消えた。


……たぶん成功したかな?

サイゾウにこの方法を教えてもらっておいて良かったよ。

じゃないとこのイベントは出来ないからね。


あっ、ブリュスタル本人は外してあるから大丈夫です。



一応確認しておくかと思い、屋根から降りると夜の街に佇む娼婦に声を掛ける。


「すいやせん」

「あらカッコいい人、なに? 買ってくれるの?」

「いや、ちょっと聞きたい事があるっす」

「なぁ~んだ……で? 何が聞きたいのかな?」

「この国の王ってどんな人物か知ってるっすか?」

「あぁあのクズ王? どんな人物か? 誰もが知ってると思うけど、最悪な王よ。さっさと死ねば良いのに! ……と、ここだけの話、エミュリシア様が今も何とか玉座を取り戻そうと密かに戦ってるのよ」


うむ、どうやら上手く記憶を植え付けられたようだな。


「なるほど、ありがとうございやす……これは情報のお礼っす」


そう言って金貨を1枚指で弾き投げ渡す。


「あら、良いの? また何か聞きたい事があったら来てねぇ~、私はいつもこの辺りに居るから」

「どうもっす」


俺は歩いてその場を離れ、これで後は公に玉座を奪うだけだと思いながら歩いていると、前方にある路地裏に数人の男が若い女を囲みながら入って行くのが見えた。


またナンパか? と思いながら路地裏の前を通り過ぎる時、チラっと路地裏を覗き込むとそこには、暗がりでヒソヒソと話しているようで、ナンパではないようだと判断する。


すぐさま周囲を確認しながら影に潜り、男の影に移ると女はなんとプレイヤーのコロンだった。


何してんだ?



「ちょっと、いきなりこんな所に連れて来て何なの? エミュリシアの近くに居ないと」

「コロンさん、我々はエミュリシア様が新しい女王陛下になるために動いてます」

「知ってるけど?」

「ですが、俺達は今の王からの指示で、地下に潜ってました」

「ん? スパイって事?」


頷く男達。


なるほど、ブリュスタルの息の掛かった者達か。

ディー以外にも居たんだな。


「それを私に言うって事は、焼き殺してほしいのかな?」

「いやいや、違いますよ!?」

「じゃあ何?」

「自分でもよく分からないんですけど、なんであんな王に従っていたのか……このまま黙ってるのはダメだと思い、こうして打ち明けました」

「……それはリュバッセンさんに言うのが筋じゃない? 私は異界人でよそ者だからね」

「裏切り者でしたなんて言えば、殺されますよ」

「それでもちゃんと謝って、何をしてきたのか全部話して許しを請えば良いの」

「……やっぱりそうですよねぇ」

「あんた達がなんでいきなり話す気になったのかは知らないけど、それは全部リュバッセンさんに話しなさいな」


コロンがそう言うと男達は少し考えた後、頭を下げ「分かりました」と言って路地裏を出て行った。



1人残ったコロンの影から出て、背後から声を掛ける。


「スパイがまだ居たんすねぇ」

「っ!? ……あなたねぇ、こんな路地裏でいきなり後ろから声を掛けないでくれる?」

「ビックリしたっすか?」

「警戒はしてたけど、まったく気付かなったんだけど?」

「そりゃあっしはハンターっすからね」

「で? あいつらが言ってた王って誰の事?」


やっぱりプレイヤーには効かないのかな?

精神耐性が高いか魔力制御が高いのかも?


俺はブリュスタルという男が現在の王である事、エミュリシアが密かに戦っている事を国民は知っている事を話す。


「……記憶の改ざん? そんな事が出来るの? 私も弄られてる?」

「いやいや、どうやら異界人は無理っぽいっすね。それか魔力制御が高いか精神耐性が高い人には効かないんで、そのどれかじゃないっすか? あっ、ちなみにやったのはハンゾウさんっす」

「あぁ……精神耐性はあるね」


いろいろあったんだな。


するとそこでイブキから、メンバーが到着したと念話が届く。

もう着いたのか。


「じゃあ、あっしは用事があるんでいきやすね」

「ねぇ……」

「はい?」

「……エミュリシアはちゃんと女王になれるのよね?」


俺は一瞬キョトンとした後、笑顔で。


「勿論っす」


と答え、路地裏の奥へ行くと影に潜り、影渡りで自分の家へ戻った。

全員の魔法を解かないとねぇ。

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